森保ジャパン、強い相手に完敗してこそ見えたもの
2019年11月のインターナショナルマッチデー(IMD)を使って、日本代表は3つの試合を行った。フル代表は14日にアウェーでキルギスとワールドカップ(W杯)カタール大会アジア2次予選を戦い、その後、大阪に戻って19日にベネズエラと強化試合。U-22(22歳以下)代表は17日に広島でコロンビアと手合わせした。コロンビアとベネズエラはそろって日本に快勝し、「強いチームと戦わないと見えないものがある」ということを嫌というほど教えてくれた。
特に注目を集めたのは17日のコロンビア戦だった。来年の東京五輪で金メダルを目指すチームが、すでにフル代表の常連である堂安(PSV)、久保(マジョルカ)を呼んで「融合」にトライしたからだ。
U-22代表は17年12月にチームを立ち上げた。そこからアジアやフランスの大会に参加し、南米にも遠征してブラジルと対戦するなど強化に励んできた。これまで日本国内で試合をしたことはなく、コロンビア戦は立ち上げから36戦目で迎えた初お目見えの舞台だった。
結果はご存じのとおり、0-2の完敗。何試合か同じメンバーで戦い続ければ連係は確実に良くはなるだろうが、来年夏の五輪本番まで、まとまって練習に割ける時間はあるようでないから、どういう編成にするにしても融合は大変な作業だとあらためて感じた。
■駆け引きの連続に耐えうる状況判断の速さ
コロンビアも、フル代表から前半だけで4点を奪ったベネズエラも、後ろの方でボールをだらだら回すようなサッカーではなかった。縦に早くボールを運び、相手のDFラインの裏をいかに突くか。そこに全神経を集中していた。ペナルティーエリアの中を崩しにかかる攻撃はまさに世界基準。室屋(FC東京)をかわし、先制点をお膳立てしたベネズエラのソテルド(サントスFC)のクロスはJリーグではなかなかお目にかかれない速さとタイミングの代物だった。
ベネズエラは育成に力を入れている国だ。17年のU-20W杯韓国大会では決勝トーナメント1回戦で冨安(ボローニャ)や堂安、久保、三好(アントワープ)、杉岡(湘南)、中山(ズヴォレ)、板倉(フローニンゲン)らを擁する日本を延長戦で下し、余勢を駆って準優勝している。その時のメンバーと日本戦でハットトリックを記録したロンドン(大連一方)らのベテランが今は見事にかみ合っている。
コロンビアもベネズエラも、前線から日本のパスの行き先をびしびし押さえにきた。素晴らしいのは相手の配置、体勢を見てサッカーができるところ。選択肢を複数持ちながら、相手の出方によってぎりぎりで判断を変えることができる。型にはめた戦術練習でロボットのような選手をつくるのではなく、駆け引きの連続に耐えうる思考のスピードを身につけさせているのだろう。
日本の側から見ると、ボールの失い方がまずかった。ミスのほとんどがパスをカットされたものだった。受け手はマークの外し方が甘く、出し手は「そこに出しますよ」という見え見えのパス。そういうものがことごとくカットされた。これでは日本のサッカーにならない。
それをただのパスミスで片付けると進歩はないように思う。南米の選手は守備の原則を守りつつ、少しでも球勢が弱かったら前に出て取る、絡め取る、取れないと思ったらトラップミスした瞬間を狙う、というモードの切り替えをスムーズに行える。これはもう実戦形式の常に相手がいる状況で脳のトレーニングになる練習をたっぷりしているから身につくのだろう。
■南米で唯一W杯未経験のベネズエラ
また、そういう奪い合いが常識だから、ボールを持つと守備側の強烈な寄せ、差し込む足をかいくぐる勇気と技術がおのずと備わる。こういう厳しさ、たくましさは育成の段階から、ある意味で"危ない"ことをさせ続けないと身につかないように思う。大人が「そんなことをしちゃダメ」と先回りし、角を削っていくと、ミスを怖がって安全第一のプレーを選ぶようになるというか。
コロンビアもベネズエラも非常にいいチームで、五輪前年のタイミングで日本と試合をしてくれたことはありがたいことだった。欧州勢はIMDを欧州選手権の予選等に使うから、日本に呼びにくい状況にある。そこを埋めるように南米勢が来てくれる。今の南米勢は10カ国にほとんど差がない実力伯仲状態だから、どこを呼んでもいい強化試合になる。
中でも今回のベネズエラはやる気がすごかった。遠来の南米勢は時差ぼけを伴った試合になりがち。それが今回はキルギス帰りの日本より先に来日、大阪で1週間みっちり練習して試合に臨んできた。いよいよ南米でもW杯カタール大会予選が始まるので、日本戦を強化の仕上げの一環と位置づけてきた。南米でW杯に出たことがない国はベネズエラだけ。カタールで初のW杯出場を果たすのだという覚悟が本気の準備をさせたのだろう。そんな意気込みが試合の中身にしっかり反映されていた。
こういう厳しい試合を今後もどう増やしていくか。お互いがプライドを持って激しく戦い、負けると悔しい思いをしないと成長はしない。弱点を明らかにしてくれることは成長の幅を広げてくれることにつながる。そういう意味では勝ったキルギス戦よりも、負けたベネズエラ戦やコロンビア戦の方が選手の成長を促すわけで、完敗の2試合も決して無駄ではなかったと思うのである。
11月の3連戦を少し視点を変えて見てみよう。
世界のサッカーカレンダーは欧州中心に回っている。国際サッカー連盟(FIFA)と欧州連盟(UEFA)がつくるカレンダーは誰にも動かせないのが実情で、IMDも欧州各国のリーグを邪魔しない形で組み込まれている。マラソンの会場変更で何かと話題の東京五輪も夏の暑さの中で行われるのは、サッカーやバスケットボールなど人気競技のオフシーズンにあたるからだ。
■今のJリーグは一流の外国籍選手が在籍しにくい日程
サッカーの場合、U-20W杯も欧州のリーグがオフになる6月に行われる。4年に一度の大人のW杯も6、7月に開かれる。21年にリニューアルされる予定のクラブW杯も6月開催が見込まれている。すべて、欧州各国のリーグが5月中旬にフィナーレを迎えた後に行われる。
その終幕を邪魔しないようにIMDは3月に組み込んで、4月と5月はクラブの戦いに集中させる。欧州各国のリーグの優勝争いが第4コーナーを回って佳境を迎えた時、代表の活動がリーグの優勝や残留や昇格の邪魔しない仕組みになっているわけだ。
その点、Jリーグは本当に気の毒である。FIFAが定めた11月のIMDとクラブの戦いの最終盤がもろにかぶるからである。アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)、Jリーグの優勝・昇降格と、日本代表の活動が重なる選手の11月の擦り切れ方は大変なものだろう。
外国籍選手も一苦労だ。今のJリーグは外国籍の現役代表クラスがいないから被害は小さくすんでいるが、もしいたら、11月のIMDに自国の代表戦との往復でヘトヘトになるところだ。磐田に在籍したころのドゥンガ、名古屋に在籍したころのストイコビッチがそうだった。そんな状態でリーグの最終盤を戦えば、優勝争いに影響を与えるのは間違いない。裏返すと、今のJリーグは一流の外国籍選手が来にくいリーグといえる。
FIFAがつくるカレンダーはそんなJリーグの事情など一顧だにしない。となると、こちらが何らかの対策を講じるしかない。サッカー界の先端を行く欧州に追いつこうとすると、そういうところもじっくりと考えていかなければならない。
(サッカー解説者)