オーエックスの車椅子 職人手作り、アジア輸出
オーエックスエンジニアリング(千葉市)がつくる車椅子はオーダーメードだ。一人ひとりの要望をくみ取り、パーツを選んで組み合わせる。競技用も含めて、日本人と体格の似たアジアへの輸出を主力とする。体が大きく製品に工夫が必要な欧米市場にも挑む。
千葉市のオーエックス本社には工場が併設され、車椅子を作る音がカン、カンと響く。職人が金属の部品をつなぎあわせている。
使い勝手を高めるために利用者の意見をくみ上げる。背もたれの角度や高さ、ホイールのサイズ、レバーの高さなど様々なパーツについて相談できる。一人ひとり違う生活のあり方に車椅子を合わせていく。
多種多様なパーツを合わせる「セミオーダー」商品は発注から完成まで3週間。パーツも含めた完全オリジナルの「オーダーメード」は最低6週間かかる。
セミオーダーが12万円以上、フルオーダーが30万円以上のケースが多い。1年間の生産台数は3千台程度ある。移動という生活の基本にお金をかける人は少なくない。
量産品と一線を画すオーエックスの製品は海外でもじわじわ浸透している。
2020年2月、オーストラリアで販売を始める計画だ。石井勝之社長は「豪州企業から販売代理店として契約したいという話があった」と話す。
すでに中国や台湾、タイなどアジアに輸出している。現地の販売代理店の従業員に取り扱いの仕方を教え、代理店を通じて利用者の要望をくむ。19年9月期の売上高10億5千万円のうち海外は4千万円ほどだ。
アジアでは欧米メーカー製も使われているが、体に合わないことが多い。例えば横幅は一般的な日本製と比べて十センチ程度大きい。オーエックスは体格の似た日本人の要望に応えてきたノウハウを生かしやすい。
今後は欧米での販売を増やせるとみている。課題は欧米人の大きな体に合ったラインを設けること。ボディーはアルミを使ってきたが、より強いカーボンファイバーの導入を検討中だ。
海外にオーダーメードの車椅子を浸透させる上で、東京が会場になる20年のパラリンピックは追い風だ。すでに関連イベントでPRする機会が増えている。
競技用は年間販売台数の1割に満たないがトップ選手が使う。スイスの陸上メダリスト、マルセル・フグ選手はその一人。国内ではテニスの国枝慎吾、上地結衣選手と陸上の鈴木朋樹、佐藤友祈選手らがいる。
1992年に車椅子の製造を始めた。バイクレーサーだった創業者、石井重行氏の試乗中の事故がきっかけだった。従来の車椅子の機能やデザインをもっと良くしたい。その思いはスポーツの世界にも届き、多様性をもたらす黒子として重みを増している。
(千葉支局 出口広元)