五輪スタジアム完成 整備1500億円、問われる価値
2020年東京五輪・パラリンピックのメイン会場として開閉会式や陸上競技が行われる新国立競技場が30日完成した。木材を多用した「杜(もり)のスタジアム」の整備費は国内最高の1569億円に上り、大会後の活用を不安視する声も絶えない。大会のレガシー(遺産)、新たな東京の象徴として価値を高めていく知恵が問われる。
競技場を外から見上げると、明るい木材が整然と並ぶ軒庇(のきびさし)と植栽の緑が層を成している。「巨大な建築物は鉄骨やコンクリートで無機質になりがちだが、木材をふんだんに使っていて親しみを感じさせる」と建築ジャーナリストの細野透さんは話す。
競技場は建築家、隈研吾氏がデザインし、大成建設などが設計・施工を担った。英建築家、ザハ・ハディド氏(故人)がデザインした旧計画が巨額の整備費を理由に撤回され、新計画が選定された経緯がある。
ヤフオクドーム(福岡市)の整備費は760億円、日産スタジアム(横浜市)は600億円で、1千億円を超えるスタジアムは国内初。せり出した大屋根、すり鉢状の3層スタンドといった構造上の要因だけでなく、東日本大震災の復興需要に伴う資材費や人件費の高騰なども影響した。
維持管理費は年24億円に上るとされる。収益確保のため、日本スポーツ振興センター(JSC)は大会後に運営権を民間に売却する方針だ。
ドーム球場やアリーナのような屋根付きであれば、天候や音漏れの心配がないため、大規模コンサートや展覧会など用途は広がっていた。だが、開放型スタジアムのスポーツ以外の用途は限られる。新競技場は当初「開閉式屋根」を設置予定だったが、コスト縮減のため省いた。
早稲田大大学院の武藤泰明スポーツ科学研究科長(スポーツマネジメント)は「競技場単体の『点』で利益を生み出すのは容易でない。海外では、周辺の商業施設やホテルなどと合わせた『面』で中長期的に黒字化を図る手法が一般的だ」と指摘する。
競技場がある明治神宮外苑は大会後に大型再開発が始まる。神宮球場や秩父宮ラグビー場を建て替え、近くには商業施設やホテルの建設も予定されている。都心に生まれた巨大スタジアムがレガシーとして国民から愛されるようになるかどうかは、大会の成功とその後の活用にかかっている。