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「ミートレス」の破壊力 200兆円食肉市場を脅かす

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CBINSIGHTS
人口増加や中間層の台頭を背景に肉の消費量が増え、将来の食料不足への懸念が高まっている。こうしたなかで、動物由来の食材や成分を使わない「ミートレス」への取り組みが広がっている。植物由来の原材料で作る「プラントベースドミート(植物肉)」や、肉の代わりのたんぱく源として昆虫食を開発するスタートアップが注目されている。ミートレス市場に挑む企業や今後の動向について紹介する。

今のところ、肉はまだ王座に君臨している。

人間は消費カロリーの3割を牛肉、鶏肉、豚肉などの肉製品からとっているとされる。CBインサイツがまとめた業界アナリスト予想によると、世界の食肉市場の規模は1兆8000億ドル(約200兆円)相当に上る。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

2018年の米国人1人あたりの赤身肉と鶏肉の消費量は約220ポンド(約99.8キログラム)と過去最高に迫った。米農務省によると、1960年には167ポンド(約75.7キログラム)だった。

農務省のデータでは18年の米国の食肉生産量も1000億ポンド以上と過去最高に達したことが明らかになった。つまり、驚くほど多くの動物が食肉用に飼育されている。米国全体では約3000万頭の牛が飼育され、アイオワ州だけでも2000万頭以上の豚が飼われている。

この急増する需要を満たすため、食肉産業は農場や飼育場に加え、加工や貯蔵センター、輸送や物流、食肉処理場などの食肉仲介業者が関与する複雑なグローバル事業へと進化している。

19年初めの6大食肉メーカーの時価総額は計600億ドルに上る。最大手の米ホーメル・フーズは230億ドルを誇る。

この業界では大胆な再編が進んでいる。ホーメルやブラジルのJBSなどが新興の食肉メーカーや製品を買収し、ますます大きくなっている。

ホーメルが14年以降に買収に費やした額は約30億ドルに上る。同社は米アップルゲート、米フォンタニニ・イタリアンミート・アンド・ソーセージズ、ブラジルのセラッチ、さらに米コロンブス・マニュファクチャリングなどを傘下に収めている。

業界最大級の買収は、中国の豚肉加工大手、万洲国際が13年に「アーマー」「ファームランド」などのブランドを持つ同業の米スミスフィールド・フーズを手に入れたことだ。当時のスミスフィールドの企業価値は71億ドルだった。

食肉業界では注目度の高い買収が相次いでいる一方、事業や倫理、環境に対する懸念を巡る課題は増えている。

一方、テクノロジーを使って研究室で肉を開発したり、プラントベースド(植物由来の原材料を使った)製品から肉をつくったりするスタートアップ企業の人気が高まっている。19年には代替タンパク質の代表格で、植物肉を使った「ビヨンド・バーガー」を手がける米ビヨンド・ミート(Beyond Meat)が企業価値15億ドル弱で上場を果たした。

それから間もなく、大手バーガーチェーンの米バーガーキングは看板商品のミートレス版「インポッシブル・ワッパー」を発売した。これは牛肉の代わりに米インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)が生産する植物肉を使ったハンバーガーだ。米カリフォルニア州レッドウッドシティーに拠点を置くインポッシブル・フーズの株式発行を伴う累積資金調達額は、公表ベースで7億ドル以上に上る。直近の資金調達ラウンドにより、企業価値は20億ドルになった。

こうした代替タンパク質のスタートアップは新たな製品を提供するだけでなく、食肉生産プロセスを根底から覆す可能性がある。

食肉バリューチェーンはいずれ大幅に簡素化されるかもしれない。「クリーンミート」を開発する研究室が農場や飼育場、食肉処理場に取って代わる可能性があるからだ。

こうした変化の影響を特に受けやすいのは、米タイソン・フーズ、米ピルグリムズ、米サンダーソン・ファームズなどの食肉加工大手だ。各社は売上高の8割以上を動物肉に関連する製品に依存している。

本稿ではCBインサイツのデータを活用し、注目のスタートアップから主な投資家、今後の動向に至るまで、成長しつつあるミートレス業界の主なトレンドについて調べる。

ミートレス経済圏で技術革新に取り組むスタートアップ

スタートアップはハイテクタンパク質製品の開発によって食肉生産バリューチェーンにディスラプション(創造的破壊)をもたらし、タイソンのような既存企業を脅かしている。

代替肉分野のスタートアップは加工肉や冷凍肉で攻勢をかけるだけでなく、米ビヨンド・ザ・ショアライン(Beyond the Shoreline)による「海藻ジャーキー」のような代替スナックも生み出している。

研究所で育てられた肉は環境面では大きなメリットがあるかもしれないが、1ポンドあたりの生産コストは動物肉に比べてまだ大幅に高い。

【代替肉・代替乳製品】

従来の食物連鎖に創造的破壊をもたらしているのは代替肉だけではない。代替食品も勢いを増している。

代替食品のスタートアップで先頭を走るのは、完全栄養飲料を手がける米ソイレント(Soylent)だ。同社は米アンドリーセン・ホロウィッツや米レアラー・ヒプ・ベンチャーズ、米グーグル・ベンチャーズなどから7100万ドル以上を調達している。

だが、同社の飲料はいくつかの問題に直面している。例えば、カナダ当局は代替食品としての要件を完全には満たしていないとして、発売を禁止している。

もっとも、ソイレントの売り上げは順調に伸びている。D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)モデルで主に販売しているが、全米の一部小売店でも売られており、18年末には英国でも発売した。

英ヒュエル(Huel)も15年、ソイレントと同様の食事代わりに飲むフレーバー付きシェイクを発売した。17年半ばには米国に進出し、米国での初年度の売上高が1000万ドルに上ったことを明らかにした。18年の売上高は1900万ドルだった。同社は英ハイランド・ヨーロッパから2600万ドルを調達している。

サンフランシスコに拠点を置くアンプル・フーズ(Ample Foods)は18年のシードラウンドと19年半ばのエンジェルラウンドで計200万ドルを調達し、累積調達額は約300万ドルになった。同社は植物性食品業界を対象に、ビーガン(完全菜食主義者)や「ケトン体ダイエット」向け代替食品を提供している。

粉末代替食品を手がける仏フィード(Feed)は18年に1700万ドルを調達し、累積調達額は2100万ドルを超えた。欧州での代替食品の展開をめざしているが、将来は他の地域にも事業を拡大する計画だ。

同社はフランス国内で生産され、ビーガンかつグルテンフリーで、乳糖と遺伝子組み換え作物(GMO)不使用の代替食品を提供する。これまでに販売した粉末は200万ポンドに上る。

消費者は菜食や代替タンパク質への志向を強めているため、代替乳製品も投資家や消費者の注目を集めている。

代替乳製品を手がける企業の多くは既に食料品店で日常向けに商品を販売している。エンドウ豆を原料に使った代替ミルクを生産する米リップルフーズ(Ripple Foods)は18年初め、米ユークリディアン・キャピタルが主導したシリーズCの資金調達ラウンドで6500万ドルを調達し、累積調達額は1億2000万ドルとなった。

植物由来のチーズを開発する米カイトヒル(Kite Hill)は19年9月、米食品大手ゼネラル・ミルズ、米CAVUベンチャー・パートナーズ、米ニュー・クロップ・キャピタルから1500万ドルを調達し、累積調達額を約8000万ドルとした。

さらに19年3月には、人工知能(AI)を使って卵不使用のマヨネーズを生産するチリのノット(NotCo)が米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)を含む投資家から3000万ドルを調達した。

米パーフェクト・デイ(Perfect Day)は遺伝子配列の解析と3D印刷を使って牛を使わないミルクを開発した。19年2月のシリーズBの資金調達で香港のホライズン・ベンチャーズ、シンガポールのテマセク・ホールディングス、米穀物加工大手アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)などから3500万ドル弱を調達し、累積調達額は6150万ドルとなった。

代替肉や代替乳製品が新たな原材料となることで、従来の動物由来の製品のシェアがさらに下がる可能性がある。

【昆虫食が主流に】

国連食糧農業機関(FAO)によると、昆虫を食べる習慣がある人は世界全体で約20億人に上る。

これをタブーとする国もあるが、虫や昆虫は環境に優しいたんぱく源として成長している。

世界の国の8割で1000種類以上の虫や昆虫が食べられており、消費者は昆虫食を栄養が豊富で持続可能な肉の代替品とみなすようになりつつある。

昆虫の消費をもっと受け入れてもらうため、最近は昆虫を使った代替原材料の開発が盛んになっている。

昆虫食品メーカー各社はコオロギやミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫)など大量に飼育できる昆虫を原材料にした粉末を生産している。

多くの企業は昆虫や虫を使ったスナックやプロテインバー、昆虫を練り込んだパスタなどを手がけている。

例えば、米エクソ(Exo)はコオロギを原料にしたプロテインバーを生産している。

同社は18年3月、ガーナと米国で事業を展開する昆虫食品メーカー、アスパイア・フード・グループに買収された。買収前の調達額は500万ドルだった。買収に伴い、アスパイアの既存のコオロギ食品シリーズ「アケッタ」は名称を「エクソ」に変更した。

一方、コオロギのプロテインバーの先駆けとして知られる米チャプル(Chapul)は19年夏、プロテインバーの生産を打ち切った。欧米の消費者にコオロギを使った食品がなかなか浸透しなかった点を一因に挙げた。

コオロギの飼育に伴う温暖化ガス排出量は牛を飼育する場合の100分の1で、タンパク質含有率は牛肉や鶏肉よりも高い。さらに、コオロギは家畜ほど多くの餌がいらないため、生産効率も高い。

採算がとれておいしい昆虫食を開発する取り組みは、大手企業などの注目を集めている。

11年に創業した米オクラホマ州のスタートアップ、オール・シングス・バグズ(All Things Bugs)は料理の基本的材料として使えるコオロギ粉の開発を進めている。同社はエクソやチャプルなど他の企業にも製品を供給している。

サンフランシスコに拠点を置くビッティ・フーズ(Bitty Foods)は、昆虫の粉末を使ったスナックを手がけている。同社の「コオロギチップス」は食用昆虫の栽培に特化した米農家だけから仕入れたコオロギを使っている。同社の累計調達額は120万ドルだ。

昆虫由来のタンパク質メーカーが提供するより健康的で持続可能なスナックは、動物由来のスナックに取って代わる可能性がある。

【肉なし「ミート」のトレンド】

・本物のような味の「血がしたたる」植物肉バーガー

植物肉バーガーの人気がこのところ急速に高まっている。

植物肉バーガーを手がけるスタートアップは1)ベジタリアンやビーガン向けの選択肢を増やし2)本物の肉のような味により、肉を食べる人を環境に優しいタンパク質を摂取するよう引き込むことで、菜食者だけでなく肉を食べる人も対象にしている。

インポッシブル・フーズのパット・ブラウンCEOは「当社はこれ(植物肉のパテ)をより優れた方法でつくった肉と捉えている。現在の肉は基本的に有史以前の技術を使って生産されており、動物を使って植物をこの非常に特殊な食品カテゴリーに転換している。だが典型的な消費者は肉の価値を動物由来かどうかで判断してはいない」と話した。

植物肉の最大手の一つであるインポッシブル・フーズは分子工学を使い、本物の肉とほとんど見分けがつかない「血がしたたる」植物肉バーガーを開発した。

動物性タンパク質に含まれる鉄分の豊富な分子「ヘム」を使うことで、植物性製品でも「肉のような」味わいを再現することに成功した。

同社は19年5月にシリーズEで3億ドルを調達し、累積調達額は7億ドルになった。

同社は消費者への直販ではなく、まずは肉なしバーガーをひっさげて商業・外食市場をターゲットにした。同社のパテを使う米国のレストランは17年には40店しかなかったが、18年には3000店以上に増えたとされる。

19年初めにはこれまでで最大の提携事業となるバーガーキングの「インポッシブル・ワッパー」を発売した。

インポッシブル・フーズは19年に米食料品店の一部でもパテの販売を始めた。20年半ばまでに全米に拡大する計画だ。

同社は主力の牛ひき肉製品に加え、肉なしソーセージ(様々な米ピザチェーンと提携)や中国で発売予定の植物由来の豚肉製品など、他のタイプの肉製品にも取り組んでいる。

一方、ビヨンド・ミートも植物由来の鶏肉やソーセージなど肉に似せた製品を手がける。

ビヨンド・ミートは計1億6400万ドルを調達した後、19年5月に上場した。同社の株価は上場後に急騰し、2~3カ月もたたないうちに時価総額は8倍以上に達した。もっとも、それ以降は下落に転じ、時価総額は今では50億ドル弱になっている。

ビヨンド・ミートは主に食料品店で消費者に直販してきたが、大手小売りとの提携に乗り出している。19年にはダンキン・ドーナツと提携し、植物由来のソーセージマフィンを発売した。

米市場以外への進出にも目を向けており、20年末までに中国で植物肉の販売に乗り出す計画だ。

・投資家、研究室でつくられた肉を支援

代替肉には、研究室で育てられた「培養肉」もある。もっとも、これは植物を使って肉に似せた製品ではなく、本物だ。

サンフランシスコに拠点を置くメンフィス・ミーツ(Memphis Meats)は自己増殖する細胞から肉をつくっている。これは「動物由来の」製品だが、膨大な数の動物を飼育したり、処分したりする必要はない。

同社は16年に製品第1弾の合成ミートボールを発表し、17年に世界初の培養鶏肉とカモ肉を披露した。

メンフィス・ミーツは市販の肉と競合できるよう、培養肉のコスト削減をめざしている。

培養肉の当初の生産コストは1ポンドあたり1万8000ドルだったが、18年1月には2400ドルまで下げた。現行の食肉生産で使われている土地と水のそれぞれ1%で培養肉を生産できるとしている。18年3月には、この「クリーン」鶏肉とカモ肉を21年に店頭販売する方針を発表した。

メンフィス・ミーツは18年、米ドレイパー・フィッシャー・ジャーベットソン(DFJ)が主導し、ビル・ゲイツ氏やリチャード・ブランソン氏らも参加したシリーズAの資金調達ラウンドで1700万ドルを調達した。さらに、18年初めには米タイソン・ニュー・ベンチャーズから出資を受けた。金額は公表されていない。

さらに最近では、一連の特許で、培養肉製品の環境への影響を一段と減らし、土地と水の使用量をさらに抑えるために、ゲノム編集技術「クリスパー」を活用する方針を明らかにした。

メンフィス・ミーツのような企業の影響により、将来は食肉生産バリューチェーンでの生産や食肉処理、加工のプロセスが減る可能性がある。

同社は培養肉製品の開発に取り組んだ最初の企業ではない。オランダ人研究者のマーク・ポスト博士は13年、米グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリン氏から資金支援を受けた研究で、世界初の培養肉バーガーを開発した。この取り組みから、培養肉の実用化をめざすオランダのモサ・ミート(MosaMeat)が誕生した。

培養肉の開発を進める米ニュー・エイジ・ミーツ(New Age Meats)は、培養肉ソーセージの開発資金を集めるために実施したシードラウンドで25万ドルを調達した。同社は21年までにこのソーセージを市場に投入する計画だ。

植物肉にも研究室で培養された「クリーン」ミートにも、トップVC(米コースラ・ベンチャーズ、米クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ)や食肉大手(タイソン・フーズ、米カーギル)など著名投資家が資金を投じている。

食肉に近い分野の企業もミートレス革命に参入している。ビーガンマヨネーズを生産する米ジャスト(Just、旧ハンプトン・クリーク)は18年、研究室で培養したチキンナゲットを規制当局の認可を受け次第発売すると発表した。19年にはカナダのドーナツチェーン、ティム・ホートンズと提携し、一部店舗で代替卵液「ジャストエッグ」を試験販売することも表明した。

もっとも、培養肉に対する規制はまだ実験的段階にとどまる。米農務省は食肉生産の規制当局であり、農業政策も主導しているが、培養肉に関しては利益相反となる可能性があるため、代替肉は米食品医薬品局(FDA)と農務省の双方が管轄している。

・メタン由来のタンパク質にも出資

バイオテック企業はメタンから肉に似た製品を開発する手段も探っている。既にメタンを使って家畜飼料を開発している企業はあるが、スタートアップ各社はメタンから人間が消費するタンパク質を開発することに関心を示している。

米カリフォルニア州のカリスタ(Calysta)は19年に4500万ドルを調達し、累積調達額は1億3800万ドルになった。

インドのストリング・バイオ(String Bio)は自社技術を商用化するために、フューチャーフード・アジアやインドのアンカー・キャピタルなどから資金を調達している。

ストリング・バイオのエジール・スビアン創業者兼CEOは「当社はそれ(タンパク質)をステーキや魚、豆腐に似た製品を生産する企業向けに販売する。そうすれば焼いて食べられるようになる」と述べている。

各社が開発したタンパク質製品はまだ人間向けではないが、メタンを使ったタンパク質は食肉生産が環境に及ぼす影響を軽減し、いずれは代替食品の原料にもなることでミートレス革命をさらに推進する可能性がある。

ストリングのスビアンCEOのコメントに基づけば、最初のステップはメタンを使った人間向けタンパク質を開発することで、次はこれを人間向けの食品に融合することだ。

ミートレスへのシフトはなぜ起きているのか

「ミートレスな未来」へのシフトが起きている背景には、いくつかのマクロレベルの理由がある。

1つ目は都市化や人口増加、世界的な中間層の台頭により、肉の消費量が増えているからだ。世界の総人口に占める都市部の人口の割合は16年には約55%だった。国連によると、30年には60%に上昇するとみられている。

一方、50年には世界の人口は96億人に増え、食品生産量は61%増加する。この成長をけん引しているのは新興国で、特に中国は最大の肉消費国であり、中間層の台頭によりタンパク質の消費量は年約4%のペースで増えると予測されている。

こうした需要増加により、将来は食糧不足に陥る恐れがある。ミートレス企業は不足分を埋めたいと考えている。

2つ目の理由は、代替タンパク源に移行することで食肉生産が環境に及ぼす影響を軽減できるからだ。前述したように、家畜は温暖化ガス排出の主な要因だ。さらに、家畜が減少すれば必要な農地を減らし、土壌浸食を食い止め、世界の水の供給圧力を軽減できる。

3つ目は、消費者がより健康的な代替食品を求めているからだ。世界各地で肥満率が高まり、消費者がより健康な代替食品に関心を示していることも、肉なしタンパク質の需要を押し上げている。

NPOによる取り組み「ミートレス・マンデー(月曜日は肉を控えよう)」と米食事宅配サービス、グラブハブ(GrubHub)の共同分析では、代替肉の人気の高さが明らかになった。この分析によると、動物性食品を使わないメニューの需要は月曜日に限らずどの日でも高まっている。

4つ目の理由は、農業とテクノロジーを融合した「アグリテック」や合成生物学の進歩により、ハイテクなミートレス製品が誕生しているからだ。細胞農業や分子工学に基づく技術を活用することで、味も食感も従来の肉に似た代替肉が増えている。

5つ目の理由は、肉の消費にまつわる倫理的問題を軽減できる可能性があるからだ。

食肉業界はかねて生産慣習の背後に潜む倫理的問題を指摘されてきた。

肉や食品(の管理)にブロックチェーン(分散型台帳)を導入する議論の高まりは、消費者が食品サプライチェーン(供給網)に透明性を求めるようになっていることを示している。カーギルは17年、ターキーの購入者に七面鳥の産地を示すため、ブロックチェーン技術の実証実験に乗り出すと発表した。

6つ目は、代替肉により汚染を減らせる可能性があるからだ。無菌状態の研究室で肉を培養すれば汚染が減り、肉の生育に抗生物質を使わず済むようになる。そうなれば現行の食料生産バリューチェーンに関連する健康問題を軽減する役割を果たせるかもしれない。

世界に広がるミートレス革命

代替肉の取引が集中しているのは食品・飲料業界が十分に発展している米国だ。一方、欧州やアジアでもミートレス市場が発展し、急成長している。

中国は17年9月、イスラエルのスーパーミート(SuperMeat)、フューチャー・ミート・テクノロジーズ(Future Meat Technologies)、ミート・ザ・フューチャー(Meat the Future)の3社から培養肉を3億ドルで輸入すると発表した。これは中国の肉消費量を50%削減する計画の一環だ。

規制当局は細胞農業を有望な食料供給源として調査し、米各州、特に食肉生産の盛んな州はミートレスに象徴される経済動向に対応しているため、規制の果たす役割は大きくなっている。

米ワシントンDCにある全米アカデミーズは17年3月、バイオテクノロジーの発展と規制の行方に関するリポートを発表した。一方、ホワイトハウスは米当局による農業バイオテクノロジーの規制の在り方について見直しに着手した。

植物肉製品を「肉」や「牛肉」と表示できないようにする法案が全米の約半数の州で策定されつつあり、食肉生産が盛んないくつかの州では既に成立している。

現時点では、人工肉に対する規制はまだ初期の段階にとどまる。食品のバイオテクノロジーは多くの規制システムにまたがっているため、アニマルフリー経済圏の規制の責任は複数の機関に及ぶ可能性がある。

将来的には、人工肉の規制という特有の問題に対処する単一の規制機関が創設される可能性もある。

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