MLB、野球普及途上国でファンを「大量コンバート」
米大リーグ機構(MLB)国際部門を統括するジム・スモール氏は日本経済新聞の取材に応じ、インド、中国など野球があまり普及していない国でファンを開拓する考えを示した。7月に現地事務所を開設したインドでは「ファンをごっそり獲得できるチャンスがある」と大きな期待を示した。イベント、選手育成など海外には年間数百万ドル規模を投資し、段階的に増やすことも明らかにした。
MLBがファン開拓の重点地域と位置づけるのはアジア。7月、インドのニューデリーに現地事務所を開設した。今後、MLBから講師を派遣し、ムンバイやデリーなど主要都市の300以上の学校で野球教室を実施する計画だ。インドはクリケットが国民的スポーツとして定着しており、野球人口はまだ少ない。
イベントなどを通じ、野球に親しんでもらうことから始め、野球人口を増やす。スモール氏は「クリケットは野球と共通する動きが多く、ファンをごっそり獲得できるチャンスがある」との見通しを示した。
野球人気が徐々に高まっている中国では国内3カ所に直営のプロ選手の育成学校を設け、中国人メジャーリーガーが増えるよう後押しする。現地の不動産会社と提携して20カ所以上の野球練習施設を建設するなど、競技環境の整備も進める。
MLBのファンを増やすのに最も効果があることについてスモール氏は「試合を現地で開催してMLBを体感してもらうことだ。テレビの中の存在のMLBが身近な存在になり、真のファンになってくれる」と話す。6月に欧州で初の公式戦をロンドンで行ったところ、試合後に公式SNSへの登録者数が急増した。
日本で3月に開催した開幕戦も、イチロー選手が引退表明をしたこともあって大きな反響を呼んだ。スモール氏は「今後も海外の試合数を増やしていくつもりだ」と話した。
日本はMLBにとって最重要市場なのだという。2003年にいち早く現地拠点を設け、放映料や関連グッズなどの売上高が急拡大した。今春まで日本でアジア地域の代表を務めていたスモール氏は「日本の成功例を他国に広げたい」と話す。野球人気の高い日本だが、子供の野球離れを懸念しており、小学校での野球教室を検討している。
メジャーリーガーの出身国では人数に比例してMLBのファンが増えるという。ブラジルやメキシコでも育成学校の設立を検討している。スモール氏は「エンゼルスの大谷翔平選手のようなスター選手を各国で育てたい」としている。
9月には4K映像を合成してなめらかに中継する「ウルトラ・リアリティー・ビューイング」と呼ぶ技術でNTTと提携した。複数台の4Kカメラで撮影した試合映像を大型ワイド画面に映し、パブリックビューイングなどでより臨場感のある映像が見られる。新たな観戦スタイルを提案し、試合開催がない地域のファン獲得につなげる。
10月にはポストシーズンの試合で同技術を用いた中継実験に成功した。スモール氏は「アメリカにいなくても、球場スタジアムにいなくても、画面越しに臨場感のある試合が観戦できるようになれば大きな武器になる」と新技術に期待を示した。
(ニューヨーク=野村優子)
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