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4つの壁、審判対策…日本支えた「細かすぎるスクラム」

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強豪のアイルランドを押した。スコットランドからも複数の反則を奪った。ラグビー日本代表がワールドカップ(W杯)で初の8強に入った要因が攻守の起点となるスクラムの健闘である。その裏には、W杯が終わるまで門外不出にしてきた「細かすぎる技術」があった。

アイルランド戦で得た自信

「日本のスクラムを劇的に進化させてくれた」。W杯でスクラムの最前線を担ったプロップ稲垣啓太(パナソニック)が感謝するのが長谷川慎コーチである。こわもての顔と対照的にその指導は実に繊細。過去の指導内容を記した資料は現在、2072ページにまで達している。

その指導の結晶が、1次リーグのヤマ場、アイルランド戦である。この試合のスクラムのテーマは「全員で3番(右プロップ)を助けに行くことだった」と長谷川コーチ。相手の左プロップ、キアン・ヒーリーの反則気味のプッシュの矢面に立つ、右プロップを守るという意味である。

ヒーリーは組む直前、左足を1歩外に開き、内側に角度をつけて押す。相手の右プロップを孤立させるためだ。本来は反則だが、この試合のアンガス・ガードナー主審が目こぼしすることも事前の分析で分かっていた。

前半34分、日本のピンチのスクラムでもヒーリーは斜めに組んできた。対する日本。右から力を受けた右プロップの具智元(ホンダ)に、隣のフッカー堀江翔太(パナソニック)が体を密着させてついていく。後方のロックやフランカーも具の体勢が崩れないように支える。日本の8人がぐいと前に出ると、我慢できなくなったヒーリーが顔を上げる。判定はアイルランドの反則だった。「スクラムで一番自信を得られたシーン」と稲垣は振り返る。

スクラムの根幹をなすため、長谷川コーチが「W杯が終わるまで表に出したくない」と話していた技術がある。「4ウオール(壁)」だ。スクラムの中に4つの壁をつくることで、押された時でもFW8人による「家屋」が崩れず、強い体勢を保てるという意味である。

「壁」とは選手の体と体が接する面、つまり(1)プロップの体の側面とフッカーの体の側面(2)プロップの尻とロックの肩(3)プロップの尻とフランカーの肩(4)ロックの尻とナンバー8の肩――を指す。この壁が離れたりずれたりしないようにすることでスクラムはより強固になる。無理に押せば相手の方が崩れる。まさにその狙い通りだったこの時のスクラムは、大会全体の節目にもなった。「アイルランド相手にもしっかり組めるとレフェリーにも見せられたことが大きかった」と長谷川コーチは説明する。

スクラムの判定は体操やフィギュアスケートのような採点競技の側面がある。きちんと組めず崩れた原因がどちらにあるのか、名だたる審判でも見極めが難しい時がある。迷った際には劣勢のチームの苦し紛れの反則と判断しがちだ。日本を見る目が変わったことで、その後の試合のスクラムも有利になった。

第3列もスクラムにこだわり

象徴的だったのが続くサモア戦である。終了間際のスクラムでサモアのSHがボールを斜めに投入し、「ノットストレート」の反則を犯す。日本はその後にトライを挙げ、勝ち点1のボーナスポイントを獲得した。

「その前のスクラムで僕らがプレッシャーをかけたので、審判がサモアの反則を探し始めていた」と堀江は話す。目を付けられていたサモアが厳しく取り締まられたという見立てだ。ただ、主審の頭にはアイルランド戦で見せた日本のスクラムのイメージもあったはずだ。

この試合、その後にも隠れた好プレーがあった。組み合った後、日本が前に出る。押し続ければトライや反則を狙えそうな場面。しかし、最後方のナンバー8姫野和樹(トヨタ自動車)はボールを持ち出して突進した。

一見、もったいないようだが、「姫野のファインプレーだった」と長谷川コーチは言う。直前、左プロップの中島イシレリ(神戸製鋼)が一瞬、姿勢を崩した。すぐに立て直したため主審は見落としたが、副審からの連絡で反則を取られてもおかしくない。その前にスクラムを終わらせるという姫野の冷静な判断だった。

開幕前、長谷川コーチは「ナンバー8やフランカーがスクラムのことを聞いてくるようになった。昔にはなかった文化」と話していた。ナンバー8らのFW第3列はどうしてもスクラム後のプレーに意識が行きがちだ。しかし、育んできたスクラムへのこだわりが、姫野の好プレーと貴重なボーナスポイントをもたらした。

8強入りを懸けたスコットランド戦は、相手の「崩し芸」への対策がカギだった。右プロップ、ウィレム・ネルは組んだ後で後退しながらスクラムを崩し、相手のせいに見せかける。3年前の対戦でも対面の稲垣が反則を取られていた。

以降、日本は厳しい時でも相手の体を持ち上げ、スクラムを落とさせない鍛錬を重ねてきた。この夏からは、崩された時に「反則を取られない組み方」にも取り組んだ。例えば稲垣の左腕の位置。従来は肘を伸ばして相手のジャージーをつかんでいたが、これでは稲垣が腕で引き落としたようにも見えかねないからと、腕を曲げて近めをつかむように変更した。ロック、フランカーは足を微妙に前に出し、崩れる前にしっかり押していたことをアピールする。「見栄えのいいスクラム」は奏功し、スコットランド戦では2度の反則を奪うことに成功した。

3年間の強化は「最初にジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)と立てたスケジュールの通りに全部が進んだ」と長谷川コーチは言う。4ウオールのような根幹の技術には1年目から取り組み、最後の年にはスクラムに必要な体力の強化、主審に合わせた微調整を行うという綿密な計画。「ジェイミーからは『とにかく焦るな、ターゲットに向かって全員が同じ方向を向けるようにすればいい』と何度も言われた」と明かす。

それでも南アの壁は厚く

スクラム同様、長谷川コーチのもとで細部を積み上げたのがモールだった。こちらにも「アンバランス」という秘密のキーワードがあった。

「単なる力合戦はしたくない。どこかで相手の力を漏らして(互いの力がずれる)アンバランスの状態をつくって押す」。一人一人の頭や首の位置も細かく指示し、通常はモールの練習などしないバックスまでが、どの位置に入るか決まっていた。

サモア戦ではモールでトライを挙げた。まず、ラインアウトのボールを15メートル以上奥まで投入する。相手のFWがいない位置である。モール形成の直後、押す方向をさらに外にずらすと、相手は完全に人手不足に陥った。サモアのFWが、外へ回り込んだり、モールができる前に選手を倒すといった防御法が苦手と分析したうえでの戦術だった。日本は狙い通りの「アンバランス」をつくり、一気に前へ。最後はバックス3人が加勢して押し切った。

確かな成長を見せた日本のスクラムやモールが、壁にぶつかったのが準々決勝だった。開始早々のスクラムで、南アフリカはウェイン・バーンズ主審のコールの前に組んできた。同主審は試合前、自身の声に合わせて組むよう両軍に注意していたというが、この時は見逃した。南アの「格」に一瞬、気後れしたのだろうか。

やがて後半になると、日本のスクラムは一気に崩れた。「みんなの体が削られていったという印象」と長谷川コーチ。過去4戦の疲れで満身創痍(そうい)だった選手の体を、南アの重い当たりがさらに傷つける。「ルーティンがどんどん崩れていった」。組織力が低下した日本が、パワーで優勢の南アのスクラムを止めることは困難だった。今大会最多の3度の反則を奪われた。

モールも不発だった。「どこでボールを取って、どこにどう人が入ってという設計図があった」(長谷川コーチ)が、肝心のラインアウトで大苦戦。ゴール前のチャンスでもマイボールを奪われた。「あれが実力。素直に相手が強かった」と長谷川コーチは完敗を認める。

一方で、「上に行けば行くほどスクラムなどのセットプレーが大事になると改めて実感した」と稲垣は言う。1試合で約20度発生するスクラムや、モールなどのセットプレーで互角に渡り合えないと、強豪との一発勝負を制することはできない。そのためには個々の力や技術をさらに鍛える必要があるという決意である。

HC続投、そして4年後へ

11月18日、ジョセフHCの続投が発表された。HCの信任の厚い長谷川コーチも4年後のW杯まで留任の可能性が高い。継続した強化ができることはプラスだが、メンバーが一新されればこれまで培った土台が作り直しとなるマイナス要素もある。

南半球最高峰リーグのスーパーラグビーから、日本は来季を最後に除外される。世界の強豪と体を当てる場が激減するとともに、合宿や遠征で選手がチームとして時間をともにする期間も短くなるかもしれない。

ただ、長谷川コーチは「この3年間で練習時間や1年間のプランニングは勉強になった。次にやる時、短い時間でどうするかというプランニングはすぐにできる」と自信を見せる。自国開催でつかんだ自信や教訓を生かして、4年後への再挑戦が始まる。

(谷口誠)

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