ハンセン病元患者家族の補償、ようやく道筋 なお偏見残る
国が2001年にハンセン病の元患者への謝罪と補償に踏み切ってから18年、ようやく元患者の家族にも償う道筋が整った。家族に最大180万円を支給する補償法と名誉回復を図る改正ハンセン病問題基本法が15日、参院本会議で可決、成立した。だが今もなお元患者や家族への偏見や差別は残る。社会全体で解消する取り組みが求められている。
ハンセン病は感染力の極めて弱い疾患だが、国の誤った隔離政策が「偏見や差別の社会構造」をつくりだし、元患者だけでなく、家族も苛烈な偏見や差別にさらされ続けた。就学や就労の拒否や村八分、結婚差別など多岐にわたり、家族訴訟で国に賠償を命じた6月の熊本地裁判決は「人生被害」と表現した。
元患者の訴訟では01年に国の隔離政策を違憲とする判決が出た。国が控訴を断念し、元患者の被害を補償する制度が成立したが、家族の被害には目が向けられないままだった。しかし、家族訴訟で熊本地裁が6月、国に賠償を命じ、安倍晋三首相が7月に控訴見送りを表明。家族の被害を補償する制度が新設されることになった。
補償金の請求期限は法施行から5年。対象者からの請求に基づき、厚生労働相が認定する。厚労省は補償の対象を約2万4000人、支給総額は約400億円と試算。早ければ来年1月末から支給を始める。
ただ、元患者の家族だと周囲に知られることを恐れ、請求をためらう人もいるのではないかとの指摘は多い。熊本訴訟の原告約560人のうち、法廷などで名前を明かしたのは数人だけだ。
訴訟に匿名で参加した原告の女性(64)の母と姉は約60年前にハンセン病と診断され、療養所に隔離された。両親が離婚し女性も療養所で暮らし始めたが、2人が患者とは知らなかったという。
その後療養所を出て、姉から初めて患者だと知らされた。女性は今も自分の子ども3人には母や姉が元患者であることは伏せている。訴訟への参加を機に周囲に明かした原告が配偶者の父母から離婚を迫られた事例があったためだ。女性は「ハンセン病への誤った恐怖が世間に植え付けられたままで、いまだに解消されていない」と話す。
家族訴訟の弁護団は、補償の申請書類や支払い通知が事情を知らない親族に見られてしまわないよう、原告以外からも申請の代理を請け負うことを決めた。電話による匿名での一斉相談会も近く開くという。
弁護団の鈴木敦士弁護士は「家族の不安の根本は国が差別撤廃を進めない限りは解決しない」と強調する。原告団は厚労省、法務省、文部科学省と新しい啓発策について協議中で「誰もが安心して実名を名乗れる状況を実現していかなければいけない」としている。
元患者家族への補償法と改正基本法は議員立法で、補償法は国の隔離政策で家族が受けた苦痛や苦難に対し、国会と政府による反省とおわびを前文に明記した。改正基本法では差別禁止や名誉回復、福祉増進の対象に元患者だけでなく家族も追加した。