NTT東、東大と地域5Gで連携 企業の活用後押し
NTT東日本と東京大学は次世代通信規格「5G」を企業や自治体が手軽に使える環境の整備に乗り出す。総務省が年内にも申請受け付けを始める地域限定の通信規格「ローカル5G」を使ったサービス検証の場を共同で構築。サービスが作れるオープンな場を提供する。ローカル5GはNTT東西やCATV事業者、富士通など多くの企業が参入意欲を示している。ローカル5Gを使ったサービスを創出する動きが広がりそうだ。
本郷キャンパスを5G化
NTT東と東大は2020年2月に「ローカル5Gオープンラボ」を設立する。東大の本郷キャンパス(東京・文京)と東京都調布市のNTTの研修施設をローカル5Gのエリアにする。希望する企業や自治体が自由にローカル5G環境を試せるようにする。
NTT東が18年に東京都台東区の通信ビル内に設立した「スマートイノベーションラボ」とも連携。ローカル5Gを経由して人工知能(AI)の分析などに向く、モノの近くで情報処理するエッジコンピューティング環境を利用できるようにする。
東大側ではネットワークの最先端の研究に取り組む中尾彰宏教授の研究室と連携する。同研究室が取り組むソフトウエアを活用した基地局なども利用できるようにし、コストを抑えた導入なども検証できるようにする。
企業や自治体の実証内容を聞いたうえで参加者を決定。年内に15~20社との共同実証を進める考えだ。東大が持つネットワーク研究のノウハウとNTT東が持つ地域の中小企業や自治体とのビジネス経験を生かし、ローカル5Gを活用したい企業の後押しをする。
工場で製造不良品を検出
ローカル5Gは土地や建物の所有者が土地や建物内限定で5Gを活用できる。多くの企業や自治体が参入可能な仕組みであり、農業の管理や工場のスマート化など幅広いニーズに応用する期待が高まっている。
例えば農場に導入する場合、広大な農場をローカル5Gでエリア化。センサー類で作物の状態を管理し、作業を効率化するといった用途が検討されている。
工場内で導入する場合は、製造ラインに不良品が含まれていないか映像を使ってAIで分析する。不良品を検知した場合は、ネットワーク経由で即座に製造ラインから排除するといった用途が考えられる。
ただローカル5Gに興味を持っても、具体的な事業計画に悩む企業や自治体も多いという。東大の中尾教授は「多くの企業がローカル5Gに興味を持っているが、どのように使うのか実感できない企業がほとんど。目の前で動作する環境を提供することで、こうした流れを打破したい」と共同検証環境を立ち上げる狙いを語る。
NTT東の渡辺憲一IoTサービス推進担当部長は「農業やeスポーツにローカル5Gを活用したいという声をもらっている。オープンラボでの実証を通して、導入効果を定量化できるようにしていきたい」と語る。
NTTグループではNTTコミュニケーションズ(NTTコム)もローカル5Gへ参入意欲を示している。20年2月に千葉県浦安市のラグビー練習場に検証環境を構築してビジネス化を検討する。NTT東西が地域の中小企業や自治体をターゲットにする一方、NTTコムは主に大企業にフォーカスしている。
総務省も後押し
総務省はローカル5Gの参入に向けた指針案を9月末に公表した。焦点となっていたNTT東西の参入の可否は条件付きながら認められる方向となった。意見募集を経て11月にも正式に決まる予定だ。
ローカル5Gの導入当初は仕様策定のスケジュールから5G単体の導入が難しく、ネットワーク制御に既存の4G網が必要だ。企業や自治体はローカル5Gに加えて4Gの基地局も自ら導入するか、携帯大手の4Gネットワークを連携するかが求められる。
KDDIなどは、NTT東西のローカル5G参入は公正競争上問題だと指摘していた。NTT東西がローカル5GでNTTドコモの4Gネットワークと連携すれば、固定と携帯の両市場でトップシェアの両社の競争力が強大になるからだ。
指針案では、NTT東西が携帯大手と連携して異なるローカル5Gエリアをまたいでサービス提供するような形は「原則として認められない」とした。ただしローカル5Gの導入当初に不可欠となる4Gネットワークについては「必要最小限度の範囲で連携することは可能」と一定程度の連携は認めた。
総務省は最低限のルールで、ローカル5Gを活用したサービスやビジネスづくりを優先する考えだ。
(企業報道部 堀越功)
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