大リーグと世界一決定戦 孫正義氏、未完の夢
プロ野球動かしたテック族(6)
「プロ野球の持ち込みがあった。明日にはレターを出す。すぐに準備しろ」。ソフトバンク財務部の後藤芳光が社長の孫正義からこんな密命を受けたのは球界が再編騒動に揺れる2004年夏のことだった。福岡ダイエーホークスの買収が証券会社から持ち込まれたのだ。
条件は球場とホテルやショッピングモールとのセット。20年のリース契約で年間のコストは50億円。軽く1000億円を超えるディールになることは間違いない。当時、ソフトバンクはブロードバンド「ヤフーBB」を普及させるため通信用モデムを無料でばらまき赤字のまっただ中。後藤は「確信犯的にレターの準備をしなかった」と言う。
球界参入、ファストリ・柳井は反対
すると孫が烈火のごとく怒った。孫に20年仕え、現在はソフトバンクグループ全体の金庫番と球団社長を兼ねる後藤が「過去に3本の指に入るほどの怒り方だった」と振り返るほどだ。
後藤が「まずは役員会で議論する必要があると思います」と返すと、孫は「それは後でやるからすぐに意思表示しろ」と譲らない。後藤はあわてて法的拘束力のないノンバインディングでレターを書いた。
球界参入に疑問を持ったのは後藤だけではない。社外取締役の柳井正(ファーストリテイリング会長)も
戦後に国民的娯楽の地位を築いたプロ野球は15年前、存亡の危機にあった。近鉄・オリックスの合併構想を機に噴出した球団再編運動。2004年、選手たちによる史上初のストライキを機に、球界は勃興し始めていたネット産業の起業家たちと出会う。リーマンショックの4年前、マネーがあふれユーフォリア(陶酔)という言葉を耳にすることが増えたころの話だ。テックの旗手たちはいかにプロ野球を動かし、今の再生へとつなげたのか。 (この連載は本編10回、番外編3回で構成します)
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