政教分離の議論に注目 ランダース・WSJ東京支局長
11月14~15日に天皇が行う大嘗祭について、各方面の意見を聞く。最終回はウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長のピーター・ランダースさん。
――一般のアメリカ人の天皇に対するイメージを教えてください。
年配の人はまだ戦争を思い出すでしょうね。アメリカでもっとも知られている王室はイギリス王室ですが、政治的な役割はないという点で日本の皇室も似ているという認識はあると思います。平成の天皇については戦争の歴史を忘れずに反省するという面で好意的に見られています。
――大嘗祭(だいじょうさい)が始まったのは7世紀といわれており、1400年近い歴史があります。
世界にほとんど例がない持続性ですね。そのほかで長く続いているものといえば、2000年近い歴史があるカトリック教会しか思いつきません。ローマ法王と天皇はある面で似ているかもしれません。大嘗祭の長い伝統や儀式の内容は勉強するに値すると思っています。
――大嘗祭は宗教色が強いため国は関与せず、皇室のみの行事としたらどうかという意見があります。
それはよく分かります。アメリカの憲法を作った建国の父といわれる人々は全員キリスト教徒です。19~20世紀の公教育はキリスト教を前提としたものでした。大統領は就任式で聖書に手を置いて宣誓します。でも国民にはキリスト教徒ではない人もいます。実際に宗教による差別はあります。建国間もないころにも信教の自由は保障すべきとの考えがあり、18世紀末に憲法修正第1条で国教の樹立の禁止、いわゆる政教分離が定められました。公共の場でキリスト教を前面に押し出してよいのかという議論はずっと続いています。
――経費に関しても議論があります。
アメリカの大統領の就任行事についても同様の議論がありました。多額の税金をつぎ込むことに批判があって、現在は大部分が民間からの寄付でまかなわれています。ただ、これには問題もあります。多額の寄付をした個人や企業は見返りを求めるでしょう。政治腐敗の懸念があります。
――大嘗祭をどう報じますか。
即位礼との区別が分かりにくいですね。報じるとしたら、即位礼は各国元首が集まりますから、外交の面もあり、やや政治的意味合いがあります。大嘗祭は宗教的で家族的な儀式と説明すれば、アメリカ人にも理解しやすいかもしれません。注目点はやはりアメリカと通じる政教分離の問題ですね。秋篠宮さまが国費を使わずに皇室の私的費用で行ったらどうかと発言されたこともポイントです。
――天皇と宗教についてはどう考えますか。
アメリカの国立衛生研究所の所長は有名な科学者ですが、敬虔(けいけん)なキリスト教徒でもあります。インタビューでも信仰について語っています。アメリカでは珍しくありません。上皇さまが魚類の科学者で、皇室の神道の儀式も熱心に行っていたと聞いても違和感はありません。
(聞き手は編集委員 井上亮)=おわり