トランプ流株価操縦術、「冷やし玉」も
これまで発動した中国に対する追加関税の撤回について記者団から聞かれたトランプ米大統領は「中国は撤回を望んでいるようだが、私は同意していない。中国側のほうが、我々よりはるかに強く撤回を望んでいる。これは駆け引き(ディール)だ」と答えた。
この発言が株式相場の重荷になっている。ロールバック(撤回)という単語がキーワードになった。
12日にはトランプ氏がニューヨーク・エコノミック・クラブで講演する予定なので、新たな発言が市場を揺らす可能性がある。要注意だ。
かくして、トランプ大統領が前言を翻す事例が相次ぎ、市場は一喜一憂する状況が続いている。市場で主導権を握った感があるが、そこには巧みなトランプ流の株価操縦術が見え隠れする。
米株の主要指数は高値の更新が続いているが、この調子で上がり続ければ、大統領選挙の予備選・党員集会が集中する2020年3月3日の「スーパーチューズデー」あたりで自律「反落」のリスクが高まる。トランプ氏も複雑な思いであろう。最近は、株価上昇を自画自賛するコメントが目立たない。逆に、今回のように、株価が上がったところで、相場を冷やす発言をいとわない。市場の視線でも、短期的上下動を繰り返し徐々に底値が切り上がってゆくほうが、より堅固な上昇トレンドが期待できる。
12日のニューヨーク・エコノミック・クラブでの講演では、対中発言の内容が注目される。
いっぽう、米長期金利が2%の大台に接近しているのだが、政策金利との相関が強い短期金利の上昇が相対的に鈍い。その結果、長短金利の逆転(逆イールド)現象が解消され、スプレッド(金利差)はプラス圏で拡大している。金利上昇は株価にとって逆風とされるが、不況の兆しと不安視された逆イールド現象が和らいだことは、株価にとってプラス材料と言える。
総じて、これまで「安全資産」として買われてきた米10年債、円、金が売られ、米国株の予想変動率を示すVIX指数は12割れが視野に入る。一時は警戒水域とされる20を突破していたので、すっかり市場の景色が変わった。年末を控えたヘッジファンドのポジション巻き戻しも顕著だが、市場の潮目にも変化が見られる。
マーケットでは、昨年12月の相場急落の悪夢がいまだ鮮明に残るので、今年はクリスマス前にはポジションを手じまい、年末年始を迎えようとの動きが目立つ。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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