英語試験団体、深まる困惑 入試での活用見通せず
2020年度開始の大学入学共通テストでの英語民間試験の活用見送りを受け、試験の実施団体に困惑が広がっている。受験者が大きく減れば試験会場のキャンセルなどが必要になるが、各大学の活用方針が流動的で対応を決められない状態が続く。文部科学省との本格的な協議はこれからで、新たに購入した機材などの投資を回収できるかも不透明なままだ。
「来年の受験者数がどれくらい減るか分からず困っている」。ある実施団体の関係者は戸惑いを隠さない。
共通テストで活用予定だった民間試験は6団体7種類ある。20年4~12月に受けた2回までの成績が大学側に提供される予定だった。文科省は20年度に高校3年生相当の延べ123万人が試験を受けると推計。これとは別に高1や高2の生徒らの「練習受験」も増えると見込まれていた。
ただ、民間試験の受験者がゼロになるわけではない。見送られたのは大学入試センターを通じて受験生の成績を各大学に提供するシステムの活用で、従来のように独自に成績を合否判定などに使う大学はあるためだ。
国立大学協会は8日、国立大の一般選抜の全受験生に民間試験を課すとした指針の適用を当面延期すると決議。全国立大は29日に20年度の入試で民間試験を使うかどうか発表する。
日本英語検定協会が共通テストで導入予定だった「英検S-CBT」には1日時点で約29万人から受験予約があった。20年度は予定通り実施する意向だが、大学の利用状況が分からないと「最終的な方針を決められない」(担当者)という。
来年6~11月に英語試験「GTEC」を計4回実施予定のベネッセコーポレーションの担当者も「受験を計画していた高校生もいる。大学の方針などを参考に、試験をするか検討しないといけない」と話す。
各団体は共通テストでの活用に向け、試験会場や機材の調達などで投資をしてきた。延べ123万人が参加する場合、少なくとも70億円規模の受験料収入が生まれると見込まれたためだ。
日本英語検定協会は全都道府県にテストセンターを計約260カ所設ける予定だった。監視カメラや席を仕切るパーテーションのある会場、防音性に優れたヘッドセットなどを用意。コンピューターを使う新試験も開発していた。
ベネッセコーポレーションも全都道府県の161地域で試験会場を設けるとし、高校や大学の教室、民間の会場を借りる交渉を進めていた。試験に使うタブレット型端末も準備していた。
会場のキャンセルなどを迫られる可能性もあるが、ニーズがはっきりしない現状では「身動きが取れない」(実施団体関係者)状態という。既に予約金を受け取った日本英語検定協会は、受験をやめる人への返金にも対応する必要が出てくる。
損害が発生した場合に国から補償を受けられるかも不透明だ。共通テストを運営する大学入試センターと各団体が結んだ協定書では、「相手の責任で損失が生じた場合は損害賠償を請求できる」との規定が盛り込まれている。ただ、活用自体が見送りになった場合の責任をどこが負うかは明記されていない。
文科省は見送りを発表した1日以降、各団体と順次協議を始めた。同省は24年度に新たな英語入試を導入する方針だが、民間試験の活用の是非も含めて検討する。実施団体の関係者からは「将来的にも投資分を回収できるか分からなくなった」と不安がる声が出ている。