NHK肥大化に懸念 総務省がネット業務再検討を要請
総務省は8日、NHKのインターネット業務の拡大について再検討を要請した。合理化や経営改革が進まないなかでネット業務を単純に上乗せすれば規律のない肥大化を招くとの懸念からだ。NHKは2019年度内の開始を目標とする全番組の常時同時配信の見直しを余儀なくされた。受信料で成り立つ公共放送のあるべき姿が厳しく問われている。
「インターネット活用業務を含むNHKの業務全体を肥大化させないことが求められる」。高市早苗総務相は8日の記者会見でこう強調した。
NHKの18年度の受信料収入は7122億円と初めて7千億円を超えた。各家庭の支払率も82%まで高まっている。一方、広告市場の縮小を受けて民放キー局の放送収入は1千億~3千億円にとどまる。
NHKの放送経費(総合テレビと教育テレビ)は受信料収入の5割にあたる3466億円だった。民放の18年度の制作費は日本テレビ放送網が977億円、テレビ朝日が874億円などで、NHKは民放各社の3倍以上の経費をかけている。潤沢な資金はバラエティーやドラマなどにも振り向けられ、民放からは「公正な競争環境が保たれない」との声もある。
高市氏は14~17年に総務相を務めていた際にNHKに業務、受信料、ガバナンスの三位一体改革を求めた。しかし課題だった子会社の再編は制作会社のNHKエンタープライズとNHKプラネットの統合などにとどまり、受信料の引き下げも目立った進展がない。
放送メディアによるネット配信の流れに沿って、NHKの常時同時配信を可能とする改正放送法が5月に成立した。成立の過程での衆参両院の付帯決議では「公正競争確保の観点から適正な規模のもと、節度をもって事業を運営する」ことが求められた。
だがNHKが10月に提出した実施基準案には「三位一体改革のなかでのネット業務という位置づけがみえない」(総務省関係者)との指摘もあった。NHKはネット業務の費用を受信料収入の2.5%以内に抑えるはずだったが、海外向けの配信費を別枠にするなどして実質的に3.8%まで拡大可能としていた。総務相も「市場競争の阻害につながる懸念が示されている」と危機感を隠さなかった。
NHKは認可権を持つ総務相から再検討の要請を受け、ネット業務拡大の見直しや具体的な経営改革策が必要になる。常時同時配信は段階的に実施するよう求められている。既存のネット業務の削減なども必要になる。
総務省はNHKのネット業務が市場競争に影響を与えるのを防ぐため、民放側の意見も取りいれた検証も求めている。NHKは要請を「精査し、しっかりと検討していく」とコメントした。
NHKの再検討の期限は12月8日だ。高市氏は「再検討の結果も踏まえて認可の可否を厳正に審査する」と述べている。