東京で「金30個」なるか 前哨戦で見えた期待と不安
五輪競技の今年の世界選手権がおおむね終了した。来年の東京大会で実施される種目・階級のメダル数を集計したところ、日本勢が今年の世界選手権で獲得した金メダルは15個。お家芸としてきた伝統競技でやや苦戦が目立った一方、新興競技で次々と世界王者が誕生し、本番に期待を抱かせた。世界選手権が開催されなかった競技もあり参考にすぎないが、日本オリンピック委員会(JOC)が目標に掲げる「金30個」に一層の底上げも欠かせない。
■団体競技で苦戦
10月、ドイツのシュツットガルトで開かれた体操の世界選手権で日本男子は団体総合、種目別平行棒の銅2つと、昨年から2大会連続金メダルゼロに終わった。リオデジャネイロ五輪前年の2015年大会で金メダルを4つ獲得したことを考えれば厳しい結果だ。
当時、団体や種目別などで金3つ、リオ本番でも団体、個人総合の2冠を果たした内村航平(リンガーハット)や白井健三(日体大大学院)が国内選考会で落選。主軸の谷川航(セントラルスポーツ)が直前に負傷するアクシデントに見舞われたとはいえ、進境著しいロシアや中国に置いていかれた観は否めない。五輪を誰よりも知る内村の復調、新鋭の橋本大輝(千葉・市船橋高)ら若手のさらなる伸びの両面がかみ合って、どこまで巻き返せるかになる。
リオ五輪で4つの金を荒稼ぎしたレスリング女子も、9月の世界選手権では金1つにとどまった。五輪実施階級の金メダルは15年(3)、18年(2)から後退した。
引退した吉田沙保里、5度目の五輪出場が絶望的な伊調馨(ALSOK)の二枚看板が抜け、新旧交代で苦しんでいるのは体操と似た構図。日本協会の笹山秀雄女子強化委員長は「そこまで惨敗と思っていない。修正できればメダルの色も変えられる」と強気を崩さないが、海外の層も厚くなってきており、研究面での遅れも気がかりだ。
レスリングと並ぶ金城湯池の柔道も予断を許さない。8月末から開催された東京大会は、新種目の混合団体を除く個人で金4と昨年の7個、15年大会の6個から減らした。全日本柔道連盟の山下泰裕会長も「よく研究され、苦戦した。厳しい戦いだった」と総括。ただ、個人戦のメダル総数は15個に上り、敗れた階級も紙一重、といった内容が多い。この差をいかに埋められるかが柔道界にとどまらず、日本全体の金メダル数の命運を左右しそうだ。
競泳は瀬戸大也(ANA)が個人メドレー2冠と気を吐いた。ただ、極度の不振だったライバルのケイリシュ(米国)の巻き返しは怖く、3選手が1つずつ金を取った15年大会と比べて層の厚さに不安も残る。上位に食い込む顔ぶれに大きな変化がなく、「若手の強化は常に努力しているつもりだが、追いついていないのが現状」と日本代表の平井伯昌監督は危機感を募らせる。
■新競技に金候補
対照的に目立ったのが新たに五輪の仲間入りをした新競技の奮闘だ。各分野で世界王者が誕生し来年に期待を抱かせた。
スケートボードは女子パークで13歳の岡本碧優(Proshop Bells)がサンパウロでの世界選手権で優勝。今シーズンの五輪予選大会3戦を全て制し、金メダルの有力候補として本番を迎えそうだ。男子はストリートで堀米雄斗(XFLAG)が銀メダル。プロ大会でしのぎを削り、世界選手権は僅差で敗れたナイジャ・ヒューストン(米国)と双璧の存在感を見せた。
スポーツクライミングは複合で楢崎智亜(TEAM au)が金、野口啓代(同)が銀。楢崎は今季のワールドカップ(W杯)でもリード、ボルダリング、スピードを合わせた総合成績ランキングで1位に輝いた。スケボーやクライミングの会場になる有明や台場の海浜地区はニューヒーロー・ヒロイン誕生の気配が漂う。
今年は世界選手権がなかったものの、空手も胸算用は立つ。形で男子の喜友名諒(劉衛流龍鳳会)は絶対本命、女子の清水希容(ミキハウス)も優勝候補として本番を迎えそう。組手男子で世界トップクラスに上がってきた西村拳(チャンプ)や女子組手のエース植草歩(JAL)らが期待通りの力を出せば男女計8種目・階級のうち、半数以上の金は十分狙える陣容がそろっている。
新たなお家芸になる勢いなのが金2つを含め6個のメダルを取ったバドミントン。男子シングルス連覇の桃田賢斗(NTT東日本)に加え、日本の3強が激戦を繰り広げた女子ダブルスはどのペアが出ても頂点を狙える。朴柱奉監督は「満足しないで足りない部分をもう一度強くできるように」とかぶとの緒を締めつつ「目標は達成できた」とうなずく。
男子20キロと50キロで頂点に上り詰めた陸上競歩や、団体で銀を獲得した新体操など着実な強化が功を奏しつつある分野もある。伝統競技の停滞感を、新興競技や、これまで日の目を見ることの少なかった競技が下支えした前哨戦。野球やソフトボールといった日本の強みでもある団体競技で厚みを加え、本番ではさらなるメダル上積みを狙いたいところだ。