小倉短縮に衝撃 競馬中継スタッフが見た20年日程
「夏の小倉が減るかも」「夏は札幌が増えるみたいだ」……。今年の夏から秋にかけて、色々な噂が飛び交っていた。根も葉もない噂は立たない、しかし公式の発表があるまでは受け流そう。そんな思いを抱えて10月21日を迎えた。日本中央競馬会(JRA)は同日の定例記者会見で、2020年の競馬開催日程を発表した。来年は京都競馬場の改修工事が始まり、東京五輪開催の影響もあって、例年とは大きく変わることが予想されていた。主な変更点は、既に多くのファンが把握していると思う。受け止め方もそれぞれではないだろうか。今回は、競馬を伝える側から見た来年の開催日程についての感想を述べてみたい。
■五輪期間は西日本休催、大阪支社はどうする?
今回のサプライズは、何と言っても夏の日程だろう。冒頭に触れた噂はやはり本当だった。JRA所属獣医師や馬運車が投入される五輪の馬術競技への対応と暑熱対策などを踏まえて、7月の中京開催が阪神に振り替わった。しかも、五輪開催期間と重なる7月25日から8月9日まで、3週にわたって西日本での競馬は休催となる。これによって、今年は6週だった小倉が来年は4週に短縮される。一方で札幌は今年の6週から7週に延び、五輪期間中は札幌・新潟の2場開催となる。
中京に関しては、京都の改修を受けて9月開催が行われることから、日程の移動があって不思議ではないが、例年、中京から小倉へと移る夏競馬のステップが変わることに、若干の違和感を抱いてしまう。その一方で夏の中京がないのは個人的にはありがたい。夏の中京はスタンドの向きの関係で、直射日光を浴びながらの中継となり、正直、頭がボーッとする瞬間さえある。実況にかかせない馬の名前を覚えることすらスムーズにいかないほど、暑い。今年は雨の日が多く、さほど気温が上がらなかったので、例年よりはかなり楽だったのだが……。
最も気にしているのは、7月25日から3週続く2場開催期間である。前述の通り、西日本の開催がない。となれば、我々大阪支社の競馬中継スタッフはどうなるのだろう? 基本的に大阪支社のアナウンサーは西日本の4場(阪神、京都、中京、小倉)の中継のために動いている。開催がない3週間はお役御免となるのか。
働き方改革が叫ばれ、休日をしっかり取得しないと様々なペナルティーも科される昨今、それまで休めなかった分の休日を消化し、有給休暇も取れる期間に充てられるのかもしれない。だが、瞬発力が必要な競馬実況では、3週のブランクはマイナスになる。やり続けていないと、頭で分かっていてもいつの間にか感覚が鈍ってしまうのが競馬実況の怖いところだ。
札幌か新潟のどちらかに行くケースも考えられるが、2場開催なら人手が足りているので、可能性は低そう。新潟と札幌をそれぞれ、ラジオNIKKEIが持っている第1、第2の2つの電波で完全中継するパターンも想定される。この3週間は新潟も札幌も、いわゆるメーン開催場でない扱いとなり、出走馬の厩舎の割り当てなども東西平等に行われるという。まだ9カ月も先の話とあって、決まっていないことは多く、放送の扱いもご多分に漏れず。スタッフの布陣がどうなるのかは、今後のお楽しみということになる。
■「楽しい」小倉開催、当初の半分に
関西の競馬関係者に衝撃が走ったのは、夏の小倉開催の期間縮小ではないか。理屈抜きに、夏の小倉を楽しみにしている関係者は、マスコミも含めて非常に多い。筆者もその一人だ。小倉駅周辺に飲食店街が集中していてコンパクトなのが良いのかもしれない。小倉駅の南側から、街が広がる風景を見下ろすと、羽を伸ばしてみようかという気分にもなる。夏という季節がそうさせるのかもしれない。そんな「楽しい出張」の期間が短縮されるのを残念に思っている人は少なくないだろう。
しかも、これが来年だけで終わる保証はない。1970年代から長く、夏の小倉は8週間(連続2開催)が当たり前だった。それが、2011年以降は6週に短縮されて現在に至っている。2週減った当時の関係者の落胆は想像に難くない。来年は4週だから、当初の半分になる。五輪への対応は来年だけだが、暑熱対策は21年以降も続く。来年の日程が一つのモデルとなり、そのまま定着する可能性もないとは言えない。その意味で、この日程を見るいまの心境は穏やかではない。
最後に、来年の日程変更のきっかけでもある京都競馬場について。我々の放送席があるスタンド「グランドスワン」は80年竣工で、現存する中央の競馬場のスタンドでは最も古い部類に入る。5頭の三冠馬誕生の瞬間を始めとして、様々な名勝負をこのスタンドが見守ってきたことを思うと感慨深い。しかし、放送ブースはさすがに古くなっている。汚れが目立ち、配線がむき出しになっている箇所もあるうえに狭い。快適な仕事場とは言い難いのが本音だ。「ようやく改修か」という思いもある。
京都は広さの点では実況しやすい競馬場の一つだが、ゴール板が実況席から見てかなり斜め前に位置していて、馬が並んでゴールすると、肉眼で前後を判別するのが非常に難しい。そのため、競ったゴールの場合は大型スクリーンに視線を移して実況する場合が多い。
競馬場の実況席はゴールの真横でなく、全てゴール手前にある。それでも、新潟や中京のようにゴールに比較的近ければ気分的には落ち着く。双眼鏡と肉眼で実況できるからだ。はたして、新しい京都の実況席は今よりゴール板に近づいてくれるのか……。実況する人なら誰もが、そう願っているはず。スタンドから厩舎地区も含めて、ほぼ全てが新しくなる京都が、より快適な仕事場になるよう期待している。
(ラジオNIKKEIアナウンサー 米田元気)