劇的勝利のウッズ 東京五輪の米代表に現実味
ゴルフジャーナリスト ジム・マッケイブ
もしこれが映画なら、ただの安っぽいB級映画としか、みなされないのではないか。話があまりにもうまく出来すぎている。しかし、そういうことが実際に起きると、人々は熱狂する。千葉県のアコーディア・ゴルフCCで行われたZOZOチャンピオンシップ(10月24~28日)には、ファンを魅了するすべての要素が詰め込まれていた。
米ツアーが日本で初開催されたという事実だけでも、話題性は十分。当然、日本では広く注目されたようだが、米国でも耳目を集めることになった。
というのも大雨の影響で大会2日目が中止となると、4日目は第3ラウンドに続いて最終ラウンドが行われたものの、日没順延となった。結果として優勝決定の瞬間は、月曜の朝(28日)に持ち越されたわけだが、その時間は、米国時間のプライムタイム。図らずも、日曜の夜という一番多くの人がテレビを見る時間帯と重なった。
勝てば米ツアー最多勝記録タイ
もちろん、それだけではインパクトが弱い。裏では、米プロフットボールリーグ(NFL)の中継もある。しかし、主役がタイガー・ウッズ(米国)となれば、話は違ってくる。12月に44歳となるウッズが大会に出場するのは、およそ8週間ぶり。その彼が、残り7ホールを3打リードして月曜日を迎えていた。勝てば、米ツアー通算82勝となり、サム・スニード(米国)が持つ米ツアー最多勝利記録に並ぶ。その瞬間を見よう、という米国のファンは少なくなかった。
一方で、日本のファンにとっても、さらに見どころが加わった。そのウッズを追いかけたのが松山英樹だったのである。4日目の日没直前、連続バーディーを奪うと、ウッズに3打差と迫った。決着がついたのは月曜午前という時間帯のため、ゆっくりと勝負を楽しむ余裕があったかどうかは分からないが、これ以上はない、という展開だったのではないか。
結局、勝ったのはウッズ。再開後の残り7ホールでさらにスコアを伸ばし(2バーディー、1ボギー)て松山を振り切ったが、かといってがっかりした日本のファンは少なかったはず。なにしろ、ウッズの見事な復活劇を目の当たりにしたのだから。
それにしても、誰がこんなシナリオを予想できただろう。
マスターズ・トーナメントこそ14年ぶりに制したウッズだったが、5月の全米プロゴルフ選手権は予選落ち。6月の全米オープンは21位に終わり、7月の全英オープンも予選落ち。その後、プレーオフでも第1戦の「ザ・ノーザントラスト」を脇腹の張りで棄権し、シーズンが終わると、左膝を手術した。
顔見せとの前評判覆す勝利
よって今回の来日は、公式戦ではあるものの、顔見せ程度ではないか……、そう捉えられていた。しかも、ZOZOチャンピオンシップには、昨季のプレーオフを制し、2度目の年間王者となったロリー・マキロイ(英国)、世界ランキング4位のジャスティン・トーマス、同9位のザンダー・シャウフェレ(ともに米国)らも出場。メンバー的には通常のツアーと比べても遜色がなく、不利は明らかだった。
その状況でマスターズ・トーナメント以来の勝利……。しかも、スニードに並ぶ記録的な勝ち星を挙げたのだから、驚きは小さくなかった。
さてこれで、日本のファンは来年の夏にまた、ウッズを見られるかもしれない。この1勝は、ウッズが米国代表として東京五輪に出られるかどうか、大きな意味を持ちうる。
五輪の各国代表は、男女とも世界ゴルフランキングをベースに算出される「オリンピック・ゴルフランキング」によって決定される。男子の場合、2020年6月22日付のランキングが対象だ。上位15位までに入っている選手には自動的に出場権が与えられるが、その中に同じ国の選手がいる場合、上限は4人となる。
ウッズは、ZOZOチャンピオンシップに勝って世界ゴルフランキングを一時6位に上げた。ただ、11月3日時点では米国内の順位は5位。このままでは選から漏れるが、今後の結果次第では……、という圏内に入ってきた。その意味で、この1勝の意味は小さくない。
選考レースの行方が気になるところだが、再び映画のシナリオのような展開はありうるのか。
米ツアーのシーズンと並行して、米国内のオリンピック・ゴルフランキングにもこれからはファンの興味が集まりそうだ。