パウエル氏が示す株高の賞味期限
注目の10月米連邦公開市場委員会(FOMC)。結果は、短期でタカ派、中期ではハト派との金融政策スタンスが示された。
まず、日本時間午前3時に発表されたFOMC声明文では「必要なら適宜行動する」との緩和姿勢を示す決まり文句が今回は削除された。「ついに予防的利下げのワクチン投与もこれまでか」と市場は身構えた。
しかし、同3時半からの米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長による記者会見では、中期的に利下げが排除されたわけではないことが示唆された。インフレ率がよほど上がらない限り利上げは考えにくい、との発言で、緩和終了の可能性が実質的に否定されたのだ。
英国の欧州連合(EU)離脱や米中通商摩擦に関しても、リスク後退のシナリオが語られた。前回は、明確にリスクと指摘されていたので、市場には一定の安堵感を与えた。
かくして、記者会見が進むにつれて、米ダウ工業株30種平均は上昇を加速。結局115ドル高で引けた。
とはいえ、12月の予防的利下げ確率は20%の大台を僅かながらも割り込む水準まで低下した。2019年、これまで3回続いた利下げが12月には打ち止めになる可能性が強い。そこで、市場関係者の頭をよぎるのは、18年12月の市場大混乱だ。年4回目の利上げが強行され、マーケットは大荒れになった。
3回連続の予防的利下げという点滴をいざ外されるとなると、覚悟の上とはいえ、患者の不安感は強まるものだ。利下げ打ち止めで、再び12月の冬の嵐が市場を揺らすシナリオが、既視感を持って市場内にはよみがえる。
株高のパーティーには参加するが、12月FOMC前後に一旦お開きとなるかもしれない。12月には消費財が中心となる第4弾の対中関税引き上げも予定されている。米中トップの「第1段階」の手打ちが見込まれた11月チリでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)サミットも突然のキャンセル。雲行きが怪しい。
金価格がFOMC声明文発表直後、1490ドル台から1480ドル台まで急落したが、その後買い直され1490ドル台に戻ったことは、市場のとまどいを映す現象だ。
株を買うが、ヘッジとして金も買っておくという投資家心理が透ける。今年の株価クリスマス・ラリーは出口の見極めが焦点となりそうだ。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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