三陽商会、なお苦境 4期連続最終赤字へ 社長も辞任
三陽商会は30日、2020年2月期が4期連続の連結最終赤字となり、岩田功社長(60)が20年年1月1日付で辞任すると発表した。15年6月に英高級ブランド「バーバリー」とのライセンス契約を終了して以降、後継ブランドの育成が遅れている。衣料品分野では百貨店が苦戦している一方で、ネット通販の普及で新しいビジネスモデルが台頭してきている。アパレル大手の収益構造の転換は容易ではない。
20年2月期の連結最終損益は15億円の赤字(前期は8億1900万円の赤字)になりそうだ。今期は決算期変更で14カ月の変則決算。これまで7億円の黒字を見込んでいたが、一転して4期連続で最終赤字となる。売上高も680億円と従来予想の725億円から下方修正した。7割近くを占める百貨店向けの不振が続くことが響く。業績低迷の責任を取り、岩田社長が代表権のない取締役に退き、中山雅之取締役(58)が社長に昇格する人事も発表した。
「百貨店に依存した事業モデルからの脱却が進んでいない」。三陽商会のOBはこう指摘する。三陽商会は売り上げの約半分を占めるとみられていたバーバリーとの契約終了後、「マッキントッシュ ロンドン」など収益源となるブランドの育成を急いできたが百貨店向けが中心だった。今年8月に立ち上げた20代から30代向けの女性ブランド「キャスト」も初年度の出店計画30店のうち大半を百貨店が占める。
ただ、百貨店は衣料品の販路としての活力を失いつつある。日本百貨店協会によると百貨店での衣料品売上高は18年に00年比5割減の1兆7725億円に減少した。地方や郊外店を中心とした店舗数の減少もあるが、百貨店での衣料品が振るわないのは他の販路の台頭がある。ファーストリテイリングが運営する「ユニクロ」に加えて、若い世代ではZOZOの「ゾゾタウン」など割安に買えるネット通販での購入が増えている。
追い打ちをかけるのはスタートアップを中心に急速に台頭するD2C(Direct to Consumer、消費者直販型)と呼ばれる新しいビジネスモデルだ。衣料品では製造から販売まで一貫して手掛けるユニクロのようなSPA(製造小売業)が人気だ。新モデルではさらに、店舗を持たずにネット通販サイトで安価で品質の高い個性的な商品を取り扱う。
13年4月にCODESHARE(東京・渋谷)が立ち上げたネット限定のブランド「fifth」はファッション感度の高い女性を中心に既に会員数が150万人を超えた。売上高は年平均6割増の勢いだ。オーダースーツの分野でもファブリックトウキョウ(東京・渋谷)が伸びている。
安くて品質の良いものを気軽に購入できるようになったことで衣料品への支出は減少している。総務省の家計調査の「被服及び履物」(2人以上の世帯)の支出額は18年に00年比3割減の13万6613円だ。
こうした事業環境の変化を受け、百貨店を得意としてきたアパレル大手の業績は軒並み落ち込んでいる。オンワードホールディングスは20年2月期の連結最終損益が240億円の赤字(前期は49億円の黒字)になると見込むほか、レナウンも19年3~8月期の連結最終損益が18億円の赤字(前年同期は23億円の赤字)だった。
各社はビジネスモデルの転換を迫られており、オンワードは中長期的に百貨店を中心に国内外の店舗の2割に相当する600店を閉鎖する。一方で、商品の在庫リスクを軽減できるオーダースーツに出店の軸足を移す。
レナウンも9月、ネット通販限定の女性向けブランドを立ち上げた。店舗を持たず工場から購入者に直送することなどでコストを抑え、3千円台のニットなど百貨店向けでは実現できない価格にしたことが特徴だ。三陽商会も18年4月にネット通販を支援する企業を買収するなどしているが、事業再構築は道半ばだ。
三陽商会は16年度の業績低迷の責任をとり、岩田社長の前任の杉浦昌彦氏も退任に追い込まれた。2代続けてバーバリー後のモデルを確立できなかった格好だ。新社長となる中山取締役は苦境を乗り越え、百貨店に頼らないビジネスモデルを構築するという重い課題を背負うことになる。(花井悠希、鈴木孝太朗)