就活ルール、早期化の実態とズレ 政府の改革進まず
政府は30日、2022年春に卒業予定の学生の就職活動について、面接解禁を6月とするなど現行のルールを維持することを決めた。学生の混乱を防ぐ狙いというが、インターンシップ(就業体験)などを通じた採用の早期化が進む実態とはズレがある。国際的な人材獲得競争から通年採用も広がるなか、新卒一括採用をはじめ雇用慣行の改革が滞り、ルールと実態とのズレに学生が戸惑う状況が続きそうだ。
現行の就活ルールは説明会など広報活動は大学3年の3月から、面接など選考活動は4年の6月から、内定は10月以降という内容。政府は30日の関係省庁連絡会議で22年春に加え、現在の大学1年生が卒業する23年春についても「日程を変更する必要が生ずる可能性は高くない」と確認した。
学生や企業などを対象にした調査では「現在のままでよい」との回答が3~5割程度と最も多くを占めたという。30日の会合でも大学側が「現行の枠組みの維持を求めたい」との意見を出した。
「学生にとっては就活スケジュールの目安になるので、ルールはあった方がよい」(近畿大学キャリアセンター)との声は強い。中小企業が多い日本商工会議所も「採用選考活動が早期化・長期化すると負担が増加する」との懸念を表明した。
だが、ルールがすでに形骸化している面があるのも事実だ。内閣府の調査では20年春採用に向けて学生が内々定を得た時期は4月、5月がそれぞれ約3割で最も多い。文部科学省の調査によると、6月の解禁前に面接などの採用選考活動を始めた企業は前の年に比べ5.1ポイント増の67.5%となった。学習院大学の担当者は「政府ルールがあっても現実には期日を守った採用になるとは思えない」と話す。
年間で20~30人を採用する都内の中堅人材派遣会社は「大手など他社が政府ルールを守るのかどうか全く読めない」と困惑する。実際の現場の採用活動を左右するのはルールよりも他社の動きだ。政府は企業に通年採用が定着するのは時間がかかるとみているが、ルールと実態のズレが学生に困惑を広げる一因になっているのは間違いない。
かねて経団連が主導してきた就活ルールは過渡期にある。21年春採用の分から政府が定め、経済界に順守を要請する形式になった。経団連の中西宏明会長が18年9月に「経団連が採用の日程に関して采配することに極めて違和感がある」と表明したのがきっかけだ。
背景には、経済のグローバル化やデジタル化が急速に進み、企業自らが硬直的な雇用慣行の見直しを迫られている事情がある。人工知能(AI)など先端技術にたけた高度人材は国際的な獲得競争が激しくなっている。経団連は日本企業や経済の成長にとって、通年採用の拡大など機動的な人材確保に向けた取り組みが欠かせないとみる。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事も30日の記者会見で「行き過ぎた同調性は日本に対してマイナスの影響を与える」と語った。学生が学業と就職活動を両立するうえで日程の目安が必要になるとの声に理解を示しつつも、新卒一括採用の弊害を強調する。海外に留学した学生が就活の時期を逃すといったこともある。
生産性を高めるためにも、雇用の流動化に向けた取り組みが求められる。ニッセイ基礎研究所の清水仁志氏は「就活ルールの現状維持はある程度予想通り。企業の多くが実際には維持を望んでおり、政府の決定は仕方がない」とみつつも「今年も成果が出なかったのは残念」と話す。
政府主導にルール作りを切り替えたものの、国際的な競争や技術進歩を踏まえた改革論議は深まったとはいえない。むしろ現状追認という停滞感が色濃くなった。