韓国、対米摩擦回避へ苦渋の選択 農業保護策を実施
【ソウル=鈴木壮太郎】韓国政府は25日、世界貿易機関(WTO)での発展途上国の地位を放棄することを決めた。「今後のWTO交渉から適用される」とし、現行の優遇措置は当面続く。米中貿易紛争が激化するなか、途上国の地位放棄を迫る米国の圧力は日増しに強まっていた。摩擦回避のため農業団体の猛反対を押し切る苦渋の選択を迫られた。
直接の引き金は7月。トランプ米大統領がWTOで中国が「発展途上国」と申告して優遇措置を受けるのは不公正だとして、ルール見直しをWTOに働きかけるよう米通商代表部(USTR)に下した指示だ。90日以内に進展がなければ、自主的に途上国扱いをやめると圧力をかけた。
USTRの資料には韓国も含まれた。「世界で最も豊かな国々がWTOルールを回避して特別扱いを受けるために発展途上国と申告している」。トランプ氏はツイッターでも批判し、見直しを迫った。
ただ、米国からの圧力は米中貿易紛争が勃発した昨年から強まっていた。米国は経済協力開発機構(OECD)に加盟する西側の先進国でありながら、中国と共に途上国としての地位を享受する韓国に強い不満を持っていた。
「韓国はなぜ中国の肩を持つのか。我々の側に立て」――。韓国政府関係者は米国に「踏み絵」を迫られていたと語る。米国は2月のWTO一般理事会でも韓国を名指ししてこの問題を取り上げた。
韓国は自動車への追加関税や、在韓米軍の駐留経費の分担など、対米国で敏感な問題を抱える。途上国の地位にこだわれば、より大きな問題で米国からの圧力が強まりかねない。「受け入れる以外の選択肢はなかった」(同)
農業団体は韓国政府の決定に猛反発している。韓国農業経営人中央連合会は25日、「受け入れられない。政府が農業を放棄したということか」と語った。
洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政相は同日、途上国の地位放棄は「今後のWTO交渉から適用される。これまでの交渉で確保した優遇は維持される」と述べた。主力のコメにかかる513%の関税などは維持される見通しで、「ただちに農業に影響はない」と語った。
韓国政府は途上国の地位放棄と引き換えに、農業従事者向けの支援策を実行する。コメなどの価格が目標価格を下回った場合の補填や、農業経営を安定させるための現金支給など、WTOルールに抵触しない範囲で措置を取る。2020年予算は過去10年で最大となる15兆3000億ウォン(約1兆4100億円)を農業分野に充てる。