「よそ者」がつくる先駆者コマツのIoT
Bizレーダー
あらゆるモノがネットにつながる「IoT」。先駆者・コマツが新たな挑戦に乗り出した。建機から得たデータを駆使し建設会社を総合的に支援するサービス業へ脱皮する。成功させるには自前主義から脱してオープンに外部とつながる必要があり、コマツ経営陣はこの難題を買収先企業の創業者という「よそ者」に託す。通信や金融など異業種も巻き込んだ新たな事業モデルの構築に向けて、生え抜き社員をしのぐフットワークに期待は大きい。
■建機レンタルの創業者取り込む
今秋、コマツが試験販売を始める通信端末「レトロフィットキット」。NTTドコモが位置情報の補正技術を提供する。建機に装着すればセンチメートル単位の誤差で位置データを解析し、サーバー上にあるデジタルの工事図面と照合しながらオペレーターに作業手順を指示。工事のスピードアップにつなげる。将来的に建機の遠隔制御や無人化の実現も視野に入る。
データを軸にしたサービス事業の陣頭指揮を取るのが四家千佳史・執行役員(51)だ。2007年以降、コマツがグループに取り込んだレンタル建機会社の創業者であり、15年にコマツ本体に異動したという異例の経歴の持ち主だ。
「メーカーはモノをつくってモノを売る発想にとらわれがち。コマツもプロダクトアウトの発想が強かったが、これからは『モノ』と『コト』の両軸が必要になる」。180センチメートルほどの細身の長身。デジタル分野に精通し、スマートな語り口で「脱・製造業依存」を説く四家氏は、質実剛健で武骨な「機械屋」が多いコマツでは珍しいタイプだ。
福島県の建機販社のオーナー家の出身だ。97年、20代の若さで建機レンタル会社を設立した。当時普及期だった業務用IT(情報技術)システムを予約管理に活用、福島最大の建機レンタル会社に育てた。
躍進に目を留めたのがコマツだ。当時コマツでは、全地球測位システム(GPS)を活用して建機の位置や稼働情報を捕捉する「コムトラックス」を開発中。四家氏の会社にシステムの実証を依頼した。四家氏はシステムを在庫管理に応用して成果を証明。コマツは01年、自社建機へのコムトラックスの標準搭載を決め成長の原動力となった。
■「モノからコト」変革の担い手
07年、コマツは傘下の建機レンタル会社と四家氏の会社を統合させることを提案した。IoTの効用を知り尽くす四家氏を取り込む狙いがあった。承諾した四家氏は統合会社社長として辣腕を振るいコマツ社内で評価を高めていく。
15年、当時の大橋徹二社長(現会長)はコマツの次世代戦略として「スマート・コンストラクション」を打ち出す。建機データの活用を深化させ、建設業を総合的に支援するサービス事業を育成する構想だ。ビジネスの軸足を「モノ」から「コト」に転換すると宣言。責任者に四家氏を充て、執行役員に引き上げた。
「ダントツ商品」という言葉に代表されるように、ものづくりに誇りを持ちエンジンも内製化するなど自前主義が強いコマツで、レンタル子会社からの抜てきは社内外に大きな衝撃を与えた。「ベンチャー精神を忘れるな。ただし1人で走るな。コマツの中も巻き込んでいけ」。大橋氏はそう四家氏を激励したという。
この頃から製造業の世界で米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンス、日立製作所などが一斉に製造業のサービス化にカジを切り始める。だが世界の注目を集めたGEのIoTは苦戦が目立った。自前のハードで顧客を囲い込む姿勢が敬遠されたのが一因といわれる。これに対してコマツが選んだ道は、オープン化だ。これまで囲い込んできた建機データを外部に開放。コマツが基盤をつくった建機プラットフォームにつながる仲間を増やしてライバルに対抗する。
■「全部つないでこい」
その役目に最適と判断したのが、外の世界を知り、コマツだけの色に染まっていない四家氏だった。大橋氏は「お前のオープン性を広げろ。いろんなところに行ってコマツに全部つないでこい」と背中を押した。
今、四家氏はドコモなど既存パートナーとの窓口になるだけでなく、商社や保険など新たな仲間づくりにもまい進する。8月にも、三井住友銀行などと中小建設会社向け決済サービスの新会社を立ち上げた。「建機データと連動した資材供給や損害保険などのビジネスも視野に入る。建設会社の経営全般をサポートする業界に不可欠のインフラをつくりたい」と意欲を燃やす。
自動車、電機、ITなどあらゆる産業で、業態の垣根を越えた競争や合従連衡が進み、IoTはこの動きを加速させていく。「GAFA」の台頭などを背景にデータの質と量が重要になり、求められるのは偏狭な自前主義の克服とオープン志向だ。推進役となる「よそ者」の活躍と、それを許容する経営者の度量がいる。異分子の導入を通じたコマツの成功はそのことを雄弁に物語っている。
(松井基一)
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