ヤマト、消費増税の陰で静かに進めた大幅割引の狙い
宅配便最大手のヤマト運輸が1日の消費増税に合わせ、新料金体系を導入した。現金払いでは増税分2%を上乗せし、1円単位の端数を切り上げた。一方で電子マネーなどのキャッシュレス決済は端数がそのままでお得感を出した。これだけなら数円の違いだが、同社は9月以降、営業所やコンビニへの持ち込み割引、スマホで送り状を作成した場合のデジタル割引など50~210円の大幅割引を導入済み。狙いは集荷を減らし、キャッシュレス決済へと誘導することによる効率化。"損して得を取る"戦略は成功するのか。
「10月からかなりのお客様が集荷から持ち込みに移行するはずだ」。同社のある幹部はこう言い放った。スマホで送り状を作り、営業所に持ち込み、キャッシュレスで決済すれば最大で300円以上割引となる。デジタル割引の割引額は10月から10円上乗せして60円とした。
慢性的な人手不足に苦しむ宅配業界にとって、効率化のカギは集荷と現金決済だった。自宅まで取りに出向く集荷は顧客獲得の切り札でもあったので、なかなかメスを入れられなかったが、9月上旬の割引開始で集荷縮小への道筋が見えた。日本郵便も2018年9月、郵便局に持ち込み、専用アプリで決済すれば180円割り引くサービスを始めた。アプリのダウンロード数は約90万件で若年層を中心に利用が広がっている。
ヤマトは11年、業界でいち早くキャッシュレス決済を導入した。JR東日本の「Suica」や同西日本の「ICOCA」といった交通系ICカードでの支払いに対応したが、今ほど電子マネーが浸透しておらず、「大半のお客様が現金払いのままだった」(担当者)。小銭のやり取りなどドライバーの負担は減らず、配達効率は上がらなかった。消費増税を好機ととらえ、持ち込み、デジタル割引との組み合わせで、キャッシュレスに誘導する。
ネット通販の荷物の配達が増える中、集荷の減少やキャッシュレス化で業務が効率化できれば、その分の労力を配達に回すことができる。近い将来、人工知能(AI)やIT(情報技術)を活用し、効率的な配達ルートを組めるようになり、余計に効率は上げられる。
ヤマト運輸の親会社のヤマトホールディングス(HD)は19年1~3月期から2四半期連続で営業赤字と業績が低迷している。人手不足を背景に減らした荷受けを再び増やす方向にかじをきったが、アマゾンジャパン(東京・目黒)など全体の取引の9割を占める大口顧客のヤマト離れも根深く、荷物の取扱数は想定を大幅に下回っている。配送需要に応えようと、1年で1万人も増やしたドライバーら宅配便部門の従業員の人件費は重くのしかかっている。従業員の負担軽減による効率化は必要不可欠で、今後の宅配便のビジネスモデルの盛衰の生命線と言えるだろう。
(宮嶋梓帆)
[日経産業新聞 2019年10月24日付]
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