沢村賞、全投手の憧れに 時代に合わせた見直しも
今年の沢村賞は19年ぶりに該当者なしということになった。最終候補に残った2人は巨人の山口俊投手が投球回数170で完投なし、日本ハムの有原航平投手が同164回1/3で1完投だった。7項目ある選考基準のなかでも重要視される200回、10完投以上に遠く及ばず、賞の権威を落とさないための苦渋の決断だったようだ。
■タイトルにはない重みのある賞
沢村賞は先発投手にとって最高の栄誉だ。該当者なしもあり得るというのが、最多勝や最優秀防御率などのタイトルにはない重みを生んでいる。そういう意味では今年の結論に異論はない。ただ、球数制限の意識が高まり、投手の分業が進んだ近年は規定投球回数に到達する投手さえ減っている。現行の基準をクリアするハードルは高くなる一方だろう。
中6日が基本の日本に対し、大リーグでは中4日を基本に先発ローテーションを回している。日本でも投球数を100までとして中4日にすればイニングは増やせるだろう。しかしこれはかなり厳しい。私の経験からいうと、中4日が3回ぐらい続くと本来のボールが投げられなくなる。登板日の特別感も薄れ、緊張感がなくなってくる。大リーガーはつくづくタフだと思う。
中5日だと5回目ぐらいできつくなる。雨天中止が多かった昔ならまだしも、ドーム球場が増えた現在、中5日で1シーズン回るのは厳しい。中5日と中6日を併用することもできるだろうが、1週間に6試合という日程上、6人を中6日で回せれば理想的だ。
■大リーグのサイ・ヤング賞も参考に
投手の分業制や球数制限が大リーグの影響を受けて進んだことを考えれば、沢村賞も米国寄りにシフトしてもいいのではないだろうか。例えばクオリティースタート(6回以上で自責点3以下)の要素を選考基準に追加する。大リーグのサイ・ヤング賞に倣い、リリーフ投手まで選考対象とするのもいい。私が一緒にプレーした浅尾拓也、岩瀬仁紀らの全盛期の働きぶりは、エース級の先発に勝るとも劣らぬものだった。当初のコンセプトから離れたとしても、全投手の憧れとなれば、賞の権威は高まるはずだ。
私自身、19勝を挙げた1994年に選んでいただいた。この年の内容に限ればロッテの剛腕、伊良部秀輝投手に分があったと思う。前年の17勝と"合わせ技"のような受賞だった。自分のようなタイプは縁がないと思っていたから夢見心地だった。私は恐らく歴代で「最も球の遅い沢村賞投手」。ひそかな誇りになっている。
(野球解説者)