十人十色のリーダー、チーム支える ラグビー日本
桜の軌跡(中)
ワールドカップ(W杯)2大会連続で日本代表の主将を務めたリーチ・マイケル(東芝)が、今回の日本大会で初の8強入りを決める直前に言っていた。「このチームは誰が主将をやってもうまくいく」
謙遜とは思えない。今回の代表には多彩な船頭役がいたからだ。大会中は10人のリーダー陣がいて、攻撃、守備、規律、密集戦などの「傾向と対策」を試合ごとに、ほかの選手に伝えていた。各リーダーは十人十色。リーチのキャプテンシーは大局観を備えたもので、SH流大(サントリー)は「親から授かったいい声」で周囲を鼓舞、プロップ稲垣啓太(パナソニック)は論理明快だ。
「リーダーは1週間ではつくれない」。そう語るジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)は、就任直後から責任を嫌う選手に因果を含めてきた。SO田村優(キヤノン)が「自分の時間がほしい」とリーダー返上を訴えると
1次リーグのアイルランド戦で不調のリーチを先発から外したのは「ひとりの主将に頼らないチーム」を目指したHCにとっても冒険だったとみえる。周囲に懸念を漏らしつつも踏みきった荒療治。チームは揺るがず金星をつかみとり、リーチも調子を取り戻す。
「一生に一度」の自国開催に向けた選手自身の責任感も大きかった。
リーチが代表を休養した2016~17年、代役を務めたフッカー堀江翔太はその間、所属のパナソニックの主将、スーパーラグビー(SR)に参戦したサンウルブズの初代主将という「三足のわらじ」を履いていた。
特にサンウルブズの仕事は大変で、当時の日本ラグビー協会はこの選抜チームの支援に消極的。スタッフも少なく、堀江は事実上スクラムコーチを兼ねた。船出の際の危機も救っている。選手が集まらず、SRの主催者から参戦取り消しを予告されると、見かねて仲間に声を掛け、頭数をそろえた。「堀江さんがやるなら」と応じた選手がいて、その使命感と人望がなければSR参戦もW杯8強もなかっただろう。
「人格者、日ごろの行いがいい選手が必要だった」というHCの要求に応える人材が、今回はそろっていた。大会中、堀江は出場機会のない選手を連れて食事に行った。気落ちする仲間を支え、チームのまとまりを保つ気配り。リーチはファンへのサインや写真撮影に誰よりも熱心だった。
それは利他的な振るまいというだけでなく、勝つための計算でもあったのかもしれない。7月、ファン対応を終えた後にリーチは言った。「多くの人に見てもらうことで代表はもっと強くなれる。そのために小さな努力をしなければ」。40%を超えるテレビ視聴率、スタジアムの大声援。「小さなこと」の積み重ねは大きな力となって返ってきた。(谷口誠)