弱点を強みに、進化の8年 ラグビー日本
桜の軌跡(上)
事前に思い描いていたプレーではない。ボールを奪われ、高いボールを上げられるピンチから全てが始まった。WTB福岡(パナソニック)が捕球すると、他の選手も敵味方の分布をのみこんで動きだし、連続攻撃でトライを挙げた。ラグビー日本代表がワールドカップ(W杯)8強入りを決めたスコットランド戦。勝ち越しのトライは、かつての日本では不可能なプレーだった。
この場面のような、キックや攻守交代からの局面は「アンストラクチャー」と呼ばれる。スクラム、ラインアウトのように互いの陣形が整備されていないという意味だ。前回大会で日本を率いたエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ(HC)はこう断じた。「日本にはアンストラクチャーは向かない」
日本の選手には、臨機応変の判断力や技術が足りない。そう見切ったジョーンズ氏は個々の判断に委ねるプレーを減らし、決まり事を磨いた。前回大会で挙げた9トライは全てスクラムなどのセットプレーが起点。アンストラクチャーからのものは一つもない。
今大会の日本は違う。データ会社STATSによると、13トライのうちアンストラクチャーからのものが7本。日本の攻撃は多彩だった。
弱点を強みに変えたのは16年秋就任のジェイミー・ジョセフHCだ。「日本もアンストラクチャーができる」と高らかに唱えて戦術、技術の鍛錬に手をつけた。例えば、タックルされながらつなぐ「オフロードパス」。一発で防御網を破りやすいが、高い技術と接点で優位に立つだけのパワーがいる。前任者が禁じたプレーを後任者は奨励し、スコットランド戦の勝ち越しトライにつながる美しいオフロード3連発が生まれた。このチームの精髄だった。
飛躍のための下準備をした点で、前任者の功績も大きかった。15年大会にいたるまでの4年間、体づくりに努めたからこそ1次リーグで3勝できた。FWの筋肉は平均10キロ近く増量。重くなると低下しがちな持久力も向上させた離れ業は、前HCの綿密な4年計画に支えられていた。肉弾戦で戦える土台があったから、次の4年で戦術や技術に磨きをかけられた。
日本選手は小さく、弱い。状況判断ができない。そういう固定観念を打ち破ったのは、この国を熟知する2人の外国人指導者だった。日本人の母と妻を持つジョーンズ氏。現役時代に赤白のジャージーを着て戦ったジョセフ氏。両者の期待に選手も全力で応えた。「日本人でも世界でやれることを見せたい」。そう話してきたリーチ主将(東芝)を先頭に2大会続けて「世界一の練習量」を積んだ結果、自国開催の大舞台で桜が咲いた。
8年を費やして自画像を描き変えたチームは、見る者に問いかける。君たちは自分で自分の限界を決めていないか、と。
(谷口誠)
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W杯で日本が8強入りできた理由は何か。「一生に一度」の舞台にかけた人々の姿を描く。