ヤ軍、遠かった頂点 田中「学んでレベルアップを」
スポーツライター 杉浦大介
「なかなか今、終わったばかりなので、終わってしまった実感が湧かないというのが自分の正直な気持ちです……」
戦いを終えて、ヤンキースの田中将大はそう言葉を絞り出した。メジャー6年目だが、これほど悔しそうな姿は初めてだったかもしれない。
19日、ヒューストンで行われた大リーグのプレーオフ、ア・リーグ優勝決定シリーズ第6戦で、ヤンキースはアストロズに4-6でサヨナラ負け。シリーズは2勝4敗となり、ヤンキースと田中の今シーズンは終わった。
田中にとって、様々なことがうまくいかない厳しい1年だった。今季から導入された縫い目の低い公式球への調整に苦しみ、シーズン中の防御率4.45は自己ワースト2位。7月25日のレッドソックス戦では3回1/3で12失点と、屈辱的な形で痛打されたこともあった。しかし、そんな中でも適応能力と粘り強さを発揮し、11勝を挙げて6年連続2桁勝利を達成。さらに大事なプレーオフの時期に、確実に力を発揮したのはさすがではあった。
「自分の持てる力は出した。ベストは尽くしたと思います」
その言葉通り、今回のポストシーズンでも田中の安定した投球は際立った。10月5日のツインズとの地区シリーズ第2戦で5回を1失点に抑えると、アストロズと対戦した12日の優勝決定シリーズ第1戦では6回を1安打無失点と完璧な投球。プレーオフでの最初の7先発のすべてで2失点以内はメジャー史上で田中だけなのだから、その大舞台での強さが絶賛されたのも当然だったろう。
チームも地区シリーズから優勝決定シリーズ第1戦まで無傷の4連勝。絶好調の田中に支えられたヤンキースは、このまま10年ぶりのワールドシリーズへの道をひた走るかと思えた。しかし――。
アストロズは2戦目以降に真価を発揮し、ヤンキースは徐々に追い詰められていく。田中も第4戦ではプレーオフの先発機会で初めて自責点3を許し、悔しい敗戦を味わった。王手をかけられて迎えた第6戦でのヤンキースは九回に2点差を追いつく粘りをみせたが、その裏にホセ・アルテューベにサヨナラ弾を浴びて力尽きた。紛れもなく「世界一」の可能性を感じたチームのシーズンは、こうして志半ばで終わりを告げた。
「これで来シーズンに同じことを繰り返していたら何の成長もないことになってしまう。学んで、自分でしっかりと突き詰めて、レベルアップさせていけるようにまたやらなきゃいけない」
シリーズ終了後、失意のロッカールームで田中は必死に前を向いた。しかし"横綱対決"と称された激闘シリーズで敗れた悔恨は簡単には消えないだろう。「すごく良い雰囲気で戦うことができている」と表した通り、シーズン中に103勝を挙げた今季のチームには田中も手応えを感じていたに違いない。「今度こそ頂点が狙える」との思いがあったからこそ、ワールドシリーズ進出を逃した喪失感は大きかったはずだ。
6年間で4度のプレーオフ進出を果たし、「ビッグゲーム・ピッチャー」の評価もすでに手にした田中だが、チームとしての頂点は手の届くところにあるようにみえて、やはり遠い。メジャーで勝つことの難しさを改めて痛感した今秋。この悔しさも糧にして、さらに前に進むべく、長い冬が始まろうとしている。