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お遍路で四国をじっくり 増える訪日客、もてなし充実

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四国観光の「原風景」ともいえる「お遍路さん」の姿が減っている。多くのお遍路さんが使う21番札所、太龍寺(徳島県阿南市)へのロープウエーの乗客はここ数年、8万人弱と2000年前後の6割の水準にとどまり、最近の調査では巡礼者はこの10年で4割減ったという。ただ、40~50日かかる「歩き遍路」では外国人比率が伸びており、巡礼客の減少に直面する宿泊施設などは訪日客誘致に期待を寄せる。「四国は一つ」を体現できる遍路再興に向けた最前線を追った。

「お遍路さんは、四国の日常の風景」。こう語る香川県さぬき市にある86番札所、志度寺の十河瑞澄副住職は、「実感としてその姿が減っている」と内心の焦りを隠さない。江戸期に確立したとされる88カ所の札所を巡る四国遍路は、1953年に伊予鉄道が「バスによる巡礼」を始めたことで団体バス遍路が普及。四国内での道路整備が進んだことでマイカーによる巡礼も増えていった。

しかし、バブル経済の崩壊が人々を巡礼から遠ざけた。1998~2002年度には平均13万5000人が利用した太龍寺ロープウエーの乗客は01年度をピークに減少が続き、18年度は5万5000人、14年度からの5年間でも平均7万8000人にまで減った。6月に四国経済連合会と四国の地銀4行による四国アライアンスが発表した調査報告書によると、アンケートに回答した36カ所の札所すべてで10年前に比べ巡礼者が減ったと答え、減少率は平均38%に達したという。

遍路客の減少は地元に様々な影を落とす。88カ所の札所とともに四国全土に散在する巡礼客をもてなす旅館などが減っている。宿泊施設の経営者が減り、地域の人口減に拍車がかかる。そして遍路道の維持修理も難しくなり、数世紀にわたって人々が育んできた遍路さんに食べ物や飲み物を無償で施す「お接待文化」の担い手がいなくなり、四国の魅力が失われていく――。

そんな事態を避けるには、お遍路を増やすしかない。その切り札と期待されてるのが訪日客だ。お遍路減少に危機感を示した志度寺の十河副住職によれば「ここ数年、台湾や香港などアジアからの訪日客が増えており、18年には初めて訪日客の参拝者が1000人を超えた」という。長期休暇で日程に余裕があり、「お遍路さん」として四国を楽しむ訪日客は、着実に増えている。

NPO法人「遍路とおもてなしのネットワーク」では04年4月から、徒歩や自転車で88カ所を巡り、遍路を結願した人に「遍路大使」としての任命書を手渡しており、ここ数年、2500人前後が「歩き遍路」を達成している。05年6月30日までの1年間に10人だった訪日客は14年に初めて100人を突破、19年には345人に達した。全体に占める比率も17年に1割を超え、19年は2年連続で15%を超えた。

同ネットワークによると18年に416人だった訪日客のうちフランス人が66人で最も多く、台湾の46人、米国の40人と続いた。地域別では欧州が約220人で過半数を占め、100人弱だったアジアを大きく上回った。フランスからの遍路客は「地元で出版された四国遍路の本を読んで訪れる人が多い」と宍戸栄徳事務局長。訪日客に遍路の作法などを伝えている宍戸さんは、フランスからの遍路客が語った「スピリチュアルな体験だった、という感想が心に残っている」という。

増える訪日客に札所の寺院も対応を始めた。徳島県阿南市にある22番札所、平等寺では18年末、お賽銭(さいせん)をQRコードで決済する端末を導入した。国内でもキャッシュレス決済が普及するなか、「寺だけが時代に乗り遅れてしまえば、取り返しがつかなくなる」と谷口真梁住職。周囲からは「面白い取り組みだ」という声がある一方、「信仰心をないがしろにしている」との批判も聞かれる。それでも訪日客が増えキャッシュレスが普及するなか、「早いうちに議論を起こしたかった」と谷口住職。

四国・讃岐の地に弘法大師が生まれて千数百年。その息吹を伝えるお遍路が今の形になってから幕末維新を超え、戦後の混乱期を乗り越えて続いてきたのは、時代時代の変化を受け入れ、いつの世も変わらぬ煩悩を抱えた人々に寄り添ってきたから。少子高齢化、グローバル化、キャッシュレス化と大きく変わる今の世にどう対応していくのか、「お接待」の真価が問われている。

四国をぐるっと1400キロメートル 88の札所、17世紀に

 香川県善通寺市で生まれたとされる真言宗の開祖、弘法大師(空海、774~835年)ゆかりの寺院88カ所を巡ること。一番の霊山寺(徳島県鳴門市)から八十八番の大窪寺(香川県さぬき市)まで霊場(札所)の番号が振られている。11世紀後半~12世紀前半に原型が生まれ、17世紀には現在の形になったとされている。
 四国全体に散在する88の札所を結ぶと約1400キロメートルになり、歩くと40~50日かかる。始める札所や順番に決まりはなく、江戸時代には僧侶による修行だけでなく、救済や現世利益を求める庶民にも広がった。巡礼者は「お遍路さん」と呼ばれ、食べ物や飲み物を無償で施す「お接待」文化が根付いている。

廃校や空き家が「お遍路宿」に 多言語対応で訪日客もOK

四国の風景を彩る「お遍路さん」の姿が減り、88カ所の札所それぞれのそばにある宿のありようも変わりつつある。四国経済連合会と地銀4行による四国アライアンスがまとめた調査報告書によると遍路道にある旅館は2016年に219軒と1997年の3分の2に減り、寺院が経営する宿坊も24軒とほぼ半減した。ただ、個室中心のビジネスホテルは225軒と20年で6割増え、お遍路の「客層」の変化が見て取れる。訪日客の受け入れへ多言語対応など新たな動きもあり、遍路文化継承の一助となっている。

懐かしい雰囲気の廊下を進んでいくと「校長室」「音楽室」といった名札が部屋の前にぶら下がる。20番札所の鶴林寺(徳島県勝浦町)から12キロメートルほどに位置する「ふれあいの里さかもと」(同)は99年に廃校となった旧坂本小学校を活用し地域住民が運営する宿泊施設だ。

少子高齢化が進むなか交流人口を拡大し地域の活力を創造するため、ふれあいの里さかもとは開業した。近くの寺院が宿を閉じたこともあり、利用者の6割がお遍路の巡礼者だ。2018年の利用者は2500人とこの10年で2割減ったが、訪日客は75人と5倍に増えた。かつての地域の子供たちの学びやが巡礼者の一夜の宿となり、四国のお遍路文化を支えている。

増える訪日客に対応するため、今年から携帯型の自動翻訳機を導入した。簡単な英会話カードも作成し、訪日客をもてなす準備を進める。運営に携わる加々美清美さんは「地域の魅力を知ってもらいたい」とコミュニケーションを楽しんでいる。

サーフィンの聖地として世界的に有名な徳島県海陽町。國方由紀子さんは土地の魅力や住民の開放的な人柄にほれ込み、サーフィン好きの夫と17年に東京から移住した。

築50年ほどの空き家を改装し、ゲストハウス「お宿・キッチン みつ佳」を開業。23番札所の薬王寺(徳島県美波町)から35キロメートル、24番札所の最御崎寺(高知県室戸市)までは43キロメートルと札所の間に位置することから、お遍路さんも多く利用する。外国人も歩き遍路で訪れる。

「もともと訪日客が多かった地域だが、英語が話せず対応できていなかった」と國方さんは話す。東京では外資系企業に勤務しており英語が堪能。ゲストハウスのホームページは英語で併記し、実家の新潟から持ち込んだ古家具を配することで日本らしさを押し出す。

NPO法人のニュースタート事務局(千葉県浦安市)は遍路宿の英語版予約サイトを制作。「お宿・キッチン みつ佳」など登録した宿泊施設がまとめて掲載されており、お遍路をする訪日客の利便性を高めている。

少子高齢化と過疎化が進む逆境のなか、土地に思い入れのある住民が結束し、土地にほれ込んだ移住者が来訪者をもてなす。歴史あるお遍路が、新たな魅力をたたえている。

11月にパリで展示会 目指すは世界遺産

 訪日客にお遍路を楽しんでもらうには、日本に来る前に知ってもらわねば――。11月、パリで遍路旅の展示会を開く。その先には知名度向上による「四国八十八箇所霊場と遍路道」の世界遺産登録、という目標がある。
 お遍路の世界遺産登録の機運は2006年の文化庁による候補地公募がきっかけだった。手を挙げたものの審査で落ちたため、四国経済連合会や4県知事、自治体や大学などが10年に「『四国八十八箇所霊場と遍路道』世界遺産登録推進協議会」を立ち上げた。
 協議会は7月、外国人向けプロモーション動画の制作をドローンを活用した動画撮影技術をもつアピパデザインスタジオ(松山市)に委託することを決めた。パリでの展示会も共催する。認知度を上げ、訪日旅行の計画に組み込んでもらって遍路客を増やす狙いだ。
 1993年に登録されたスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」で世界各地からの観光客が急増したことも、お遍路登録を目指す原動力になっている。ただ、訪日客に目を奪われることなく、国内で団塊の世代の引退や働き方改革で休みが増える層を呼び込む策を練ることも、お遍路を後世に残すために必要だろう。

隠れた「経済基盤」 四国企業もおもてなし強化

お遍路さんが減り、四国各地で巡礼者をもてなしてきた飲食店や宿泊施設、旅行業など多くの関連産業も対策に迫られるようになった。このままお遍路さんが減り続ければ、事業が成り立たなくなり、人口減に拍車がかかり、地域経済の縮小に歯止めがかからなくなる。お遍路に国内外から巡礼者を招き入れる環境整備へ地元企業が取り組みを強めている。

「肌感覚では6割減だ」。87番札所「長尾寺」(香川県さぬき市)の近くで接待所などを運営するアトリエ香川(三木町)の多田泰朗社長の表情は険しい。

四国経済連合会などは6月、10年前と比べてお遍路さんが4割減ったとする調査結果を発表。だが、四国遍路とともに歩んできた企業として、もっと厳しいと感じているからこそ「霊場は残っても、周辺の産業は残れない」と危機感を抱く。

外国人のお遍路さんが増える一方で、日本人の減少は深刻な問題であり、多田社長は若者の関心を高めていく必要があるとみる。気軽にお遍路を体験してもらおうと、巡礼用品のレンタルを始めたのは対策の一つだ。

2018年には地域限定旅行業に登録し、スイーツを食べながらお遍路を体験するツアーなどを企画。企業の社員研修や修学旅行に取り入れてもらおうと、営業活動に力を入れており、四国遍路をもっと身近なものにしようと奔走する。

四国にとってお遍路は4県をつなぐ貴重な財産で、アトリエ香川のような関連産業も四国遍路を支えてきた。これらの産業の衰退は地域経済の縮小となって、さらに多くの企業に影響を及ぼす。だからこそ、四国遍路に直接、関わっていない企業も対策に動く。

高松空港に降り立った青い髪の女性と金髪の男性。白装束や袈裟(けさ)をモチーフとした未来的な衣装をまとい「NEOHENRO(ネオ遍路)」の旅に出る。

同空港は若者の感性に訴えかける四国ネオ遍路キャンペーンを展開し、斬新な映像で4県の魅力をアピールする。空港からのバス路線の充実に力を入れており、この路線網を生かして四国霊場88カ所を巡る商品などを考えていく。

四国電力は巡礼しやすい環境を整えようと四国遍路の案内アプリ「遍路のあかり」の配信を18年に開始。飲食店や宿泊施設などの情報を提供し、店舗のクーポンやイベント情報も取得することができる。

遍路道の保存でも、企業が活躍している。印刷業のセキの本社4階(松山市)には、フロアの一角に一般社団法人「へんろみち保存協力会」の事務局がある。「豪雨後の倒木で道が通れない」といったお遍路さんからの声を、事務局員2人が電話などで受け付ける。

同会はセキや伊予銀行、伊予鉄グループ(松山市)、愛媛新聞社(同)の地元4社が中心となって17年に法人化した。個人で遍路道の整備に取り組み、10年に亡くなった宮崎建樹さんの遺志を受け継いだ団体だ。宮崎さんが1990年に自費出版したガイド本は、現在も歩き遍路のバイブルとして親しまれている。

会員数は個人と企業を合わせて約100に上る。数年ごとに改訂するガイド本の売り上げや、会費が活動を支えている。現在の目標は「お遍路さんが道に迷わないように」と宮崎さんが建立した100基の平成遍路石に、令和の1基目を加えること。四国遍路しやすい環境を整えていく。

この連載は桜木浩己、辻征弥、棗田将吾が担当しました。

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