JAXA、はやぶさ2で目指した「問題をつくれるチーム」
「宇宙探査は、事前に答えが分からない。だから、答えを解けるチームではなく、問題をつくれるチームをつくることを目指した」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)の小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトにおいてプロジェクトマネージャを務める津田雄一氏は9日、「日経 xTECH EXPO 2019」のセミナーに講師として登壇し、こう語った。
同氏によれば、はやぶさ2プロジェクトの難しさは、それが未知で遠方にある小惑星である「リュウグウ」を対象とした探査であることに起因する。同プロジェクトは、探査や科学的な視点から見れば、「分からないからこそ面白い」「遠くの天体に着陸したい(という夢に挑める)」「(世界で)最初だから面白い」。そして、探査機は無人で宇宙空間に飛び出していくことから、手が出せない領域に挑む面白さがある(同氏の言葉では「手が出せるのは探検にあらず」といった究極の探検であることの価値がある)。
一方、それを工学的な視点から見ると、それらが困難の要因となる。すなわち、探査対象であるリュウグウがどんなところか分からないことから「(探査機や装備の)開発仕様が定まらない」、遠くにあるため「情報が届くのに20分かかる」、探査機は量産品ではなく一品物なので「統計的信頼性に頼れない」、そして無人で宇宙空間に飛び出していくことから「ひとたび打ち上げたら手が出せない」という難しさがあるという。
そこで、同氏らがはやぶさ2プロジェクトで実践したのが、「仮定したリュウグウに対して設計する」「(情報が届くまで探査機本体で対応できるような)高度な自律機能を持たせる」「(統計的な信頼性に頼るのではなく)故障を前提として設計する」「(手が出せないからこそ)高度な計画性と高い適応力で対応する」ことだという。
そして、その上でチームづくりとして目指したのが、冒頭で紹介した問題をつくれるチームという。そのためには、「自分自身の能力を熟知する」「(上下関係にかかわらず)節理・論理で答えを出せる節理・論理に忠実なチーム文化をつくる」「個々人のモチベーションを育て高める」ことが必要だったという。
同氏によると、そうしたチームを育てるために必要と考えられるのが、次の4ステップだという。ステップ1が「草創期」で、この段階でゴールを共有し、チームのメンバーが個々に能力と専門性を高めるべく研さんすることに努めなければならない。ステップ2が「混沌・衝突」の段階。自己主張をぶつけ合うことを通じて互いに磨き込んでいく。ステップ3が「一人格化・自律化」の段階。互いの専門性を強め合いながら協働し、チームとして高い自律性と自己成長性を獲得していく時期という。最後のステップ4が「収穫期」。高度なチームワークで、かつ高次に類型化した分担で成果を量産する段階だ。
そして、同氏によれば、それぞれの段階でリーダーに求められる役割は次のようになるという。まずステップ1では「適切なタスクをアサインし、専門性を見込んで任せる」こと、ステップ2では「衝突の調整、タスクの再配分、現場のアイデアの積極採用、失敗の促進」が求められる。さらに、ステップ3では「権限を委譲し、1チームメンバーとして作業に参画したり、次のゴールに向けた下準備を行ったりすること」が必要という。最後のステップ4では、「シナリオ管理、リスク管理、次のゴールの設定」が役割となると語った。
(日経 xTECH 富岡恒憲)
[日経 xTECH 2019年10月10日掲載]