JAXAと春日電機、はやぶさ2の技術応用した除電器
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と春日電機(川崎市)は共同で、真空中の帯電した物体を高速で除電できる装置を開発したと8日発表した。さらに春日電機は、この技術を応用して「マイクロ波プラズマ除電処理システム」を開発。従来の真空除電技術の100倍以上の速度で、正または負に帯電した物体を除電できる。
新開発の除電器は、小惑星探査機「はやぶさ2」のイオンエンジン中和器に搭載したマイクロ波プラズマ源を基にしている。このプラズマ源は、マイクロ波と磁石を利用してプラズマを生成するもので、大気暴露に制限がなく、取り扱いが容易だ。加えて、大きさや質量、消費電力量に制約の多い宇宙機で用いるのを前提として造られたため、小型で高真空下でも動作できる利点もあるという。紫外線イオナイザーなどの従来の真空除電技術に比べて、100倍以上の速度で除電できるとする。
その技術を応用した除電処理システムは、真空槽にプラズマ源を設置し、プラズマ源で生成したイオンと電子によって帯電した物体を受動的に除電する。イオンエンジンは長時間作動させる必要があり、プラズマ源の動作時間も長い。除電処理システムは、5万時間以上の動作試験をクリアしている。
共同研究では、JAXAが小型プラズマ源の技術を提供するとともに、除電器に適したプラズマ源の開発を担当。春日電機は、除電技術に関する知見と真空中での除電能力の測定技術を提供した。春日電機は、この成果を地上向けに転用し、除電処理システムを開発した。
JAXAによると、宇宙探査では、月面や小惑星表面に存在する微粒子(ダスト)が機器に付着すると故障や機器能力の低下を招く。そのためJAXAは、宇宙探査イノベーションハブの事業において、ダスト制御の一環として真空中での帯電問題を扱っている。
一方の春日電機は、放電やダスト付着を引き起こし、歩留まり低下の原因となる真空中での帯電を抑えるために、真空下で作動する除電器を研究してきた。そこでJAXAは、はやぶさ2のイオンエンジン中和器に搭載したプラズマ源を真空下の除電器として利用することを春日電機に提案。両者は2017年8月に共同研究契約を結び、研究に取り組んできた。
JAXAは今回の研究成果を基に、静電気による真空下でのダスト制御の研究を進める。春日電機は除電処理ステムを、高機能フィルム材の真空蒸着装置をはじめとする高真空産業機器向けの除電器として販売する予定だ。
(ライター 松田千穂)
[日経 xTECH 2019年10月10日掲載]