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伊集院静展、高校時代の油彩画や仕事場の再現も

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各地の文学館などで開かれる作家の展覧会というと、ふつう手書き原稿や校正刷り、書簡といった資料の展示が中心だ。研究者や熱心なファンにとっては意義深いとしても、一般にはややとっつきにくい面がある。その点、東京・松屋銀座で開催中の「大人の流儀 伊集院静展」(10月22日まで)は、芸能界からスポーツ界まで幅広い交友関係を持つ作家ならではの多彩な展示で、文学愛好者でなくても楽しめる構成になっている。

累計195万部を突破したエッセーシリーズの表題「大人の流儀」をメインテーマに、「生きる」「仕事」「出逢(あ)いと別れ」「大人の愉(たの)しみ」の4つの切り口から約700点を展示している。作家デビュー前や東日本大震災後の暮らしに焦点をあてた「生きる」の章で目を引くのは、高校時代に描いたピカソを思わせる油彩画だ。作家デビュー前、舞台を手がけていたころの演出プランのメモや、近年の愛犬のスケッチとともに、この作家の絵心は時に映像的と評される描写の

原点といえるだろう。

「仕事」の章の目玉は、仙台に暮らす伊集院が東京の定宿としている山の上ホテルの執筆机を再現したコーナーだ。白いクロスをかけた机はすがすがしく片づけられており、背筋を伸ばして作品に向き合う姿勢がうかがえる。この章では作家デビュー時から伴走してきたアートディレクターの長友啓典や、日本経済新聞連載中の「ミチクサ先生」でタッグを組む画家、福山小夜による挿絵の原画も展示している。イラストレーターの井筒啓之の装画に対し伊集院が注文をつけるメモもあり、この作家のビジュアルへの熱意が伝わってくる。

ビートたけし、井上陽水、武豊……。幅広い著名人との交友関係を披露する「出逢いと別れ」はこの作家の真骨頂だろう。巨人の終身名誉監督、長嶋茂雄はチームの同僚の紹介で、高校時代の伊集院と会った際のエピソードを披露している。進路で悩んでいるという伊集院に対し、長嶋は「大学に行くのならセントポール、立教大学だよ」とアドバイスしたという。「立教大学しか知らないのですから」と。その言葉に従い、伊集院は立教大に進学して野球部に入った。

今展は「大人の流儀」を刊行している講談社の創業110周年記念行事でもある。伊集院はまだ元気に執筆している自分の展覧会を開催することに違和感があったという。9日開かれた開幕レセプションで伊集院は「講談社にはこれまで多額の借金をしてきた。一応返し終わったけれど、また借金するかもしれないから開催を承諾した。特に入り用があるわけではないけれど、借金していないとどうも落ち着かなくて」と会場を笑わせた。=敬称略

(堤篤史)

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