ノーベル化学賞に旭化成・吉野彰氏ら リチウムイオン電池開発
スウェーデン王立科学アカデミーは9日、2019年のノーベル化学賞を、旭化成の吉野彰名誉フェロー(71)、米テキサス大学のジョン・グッドイナフ教授(97)、米ニューヨーク州立大学のマイケル・スタンリー・ウィッティンガム卓越教授(77)に授与すると発表した。スマートフォンや電気自動車(EV)に搭載するリチウムイオン電池の開発で主導的な役割を果たした。世界の人々の生活を変え、ITをはじめ産業の発展に貢献した業績が評価された。
日本のノーベル賞受賞は18年の京都大学の本庶佑特別教授に続き27人目(米国籍を含む)。化学賞の受賞は10年の根岸英一氏、鈴木章氏に続き計8人となった。企業所属の研究者では02年の田中耕一氏以来となる。
・ネット社会 発展の礎
・電池部材で日本勢輝く 高度な技術力
・日本受賞ラッシュ、近年は米に次ぐ2位
・門外漢が創意工夫、革新生む
・02年受賞の田中耕一氏「企業の基礎研究、今後も増える」
・リチウムイオン電池とは
授賞理由は「リチウムイオン電池の開発」。小型・軽量で高出力の蓄電池が実現したことで、スマホなどIT機器やEVの普及を可能にし、太陽光発電など再生可能エネルギーの導入拡大にもつながると期待している。
同日、旭化成で記者会見した吉野氏は「リチウムイオン電池が受賞対象になったことをうれしく思う。いろいろな分野の若い研究者ががんばっている。そういう人の励みになると思っている」と語った。
ウィッティンガム氏がリチウムイオンを使った蓄電池の基本原理を突き止めた。これを踏まえて、グッドイナフ氏は英オックスフォード大学在籍時代の1970年代後半にリチウムイオン電池の正極の開発に取り組んだ。コバルト酸リチウムと呼ぶ材料が優れた特性を備えることを見いだし、80年に発表した。
この成果を生かし、リチウムイオン電池の「原型」を作ったのが吉野氏だ。グッドイナフ氏らが開発した正極の対になる負極として、炭素材料を採用することを考案。正極と負極を隔ててショートするのを防ぐセパレーターなどを含め、電池の基本構造を確立して85年に特許を出願した。
91年にソニーが世界に先駆けて商品化した。ノート型パソコンや携帯電話などに採用され、同社の看板として一時代を築いた。
リチウムイオン電池は世界中の人の生活を大きく変えた。とくに携帯電話はインフラの整っていない途上国にも普及し、インターネットの発展とあいまって世界の通信環境を変えた。
自動車業界も一変させた。ハイブリッド車だけでなくEVが登場。国際的な環境対応の流れもあり、需要が伸びている。パナソニックが世界大手と位置づけられるほか、旭化成や東レなど材料分野でも日本企業が重要な役目を担っている。
電池の性能向上に伴い、発電量が安定しにくい太陽光発電などの電気を蓄電しておき、需要に合わせて利用できるようになった。再生可能エネルギーの普及を促す役割が期待されている。
市場投入から四半世紀が経過したいまも総合的な性能でリチウムイオン電池を上回る電池は登場しておらず、需要は伸びている。調査会社の富士経済(東京・中央)の予測では、22年のリチウムイオン電池の世界市場は17年比2.3倍の7兆3900億円にも達するという。
吉野氏は同日、日本経済新聞のインタビューに「無駄なことをいっぱいしないと新しいことは生まれてこない。自分の好奇心に基づいて新しい現象を見つけることを一生懸命やることが必要」と強調した。
授賞式は12月10日にストックホルムで開く。賞金は900万スウェーデンクローナ(約9700万円)で、3氏が分け合う。
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