米ペイパル、「リブラ」参加見送り 当局規制に懸念か
【ニューヨーク=宮本岳則】電子決済大手の米ペイパル・ホールディングスは4日、米フェイスブックが主導するデジタル通貨「リブラ」の運営団体への加盟を見送ることを明らかにした。世界各国の金融当局が通貨システムへの影響を懸念しており、規制や監督の強化を警戒したとみられる。参加表明を撤回する動きが他にも広がれば、2020年を想定していたサービス開始時期がさらに遠のきそうだ。
ペイパルは4日の声明で「(運営団体である)リブラ協会への参加見送りを決定した」と述べた。多くの人が低コストで金融サービスを利用できるようにするという理念には「賛同する」として、将来の協業に含みを持たせたが、今後は自社のサービス開発に注力するという。フェイスブックでリブラを担当するデビッド・マーカス氏はペイパル出身だっただけに、同社の離脱はリブラ構想にとって痛手だ。
フェイスブックが主導するリブラ構想は6月に公表された。運営団体には決済システム大手の米ビザや配車大手の米ウーバーテクノロジーズなど28社が加盟を表明。サービス開始時には同協会が実際の運営を担うことになっていた。参加見送りを正式に認めたのは、ペイパルが初とみられる。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはビザや同業のマスターカードも撤退を検討していると報じており、ペイパルに追随する動きが広がる可能性がある。
リブラ構想を巡っては、公表直後から論争が巻き起こっていた。主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議は7月、「深刻な懸念」を表明し、規制や監督で協調することを確認した。世界27億人の利用者を抱えるフェイスブックがデジタル通貨サービスに乗り出せば、規制や金融政策などに影響を及ぼし、既存の秩序を揺るがしかねないとの警戒が根底にある。ペイパルは参加見送りの理由を明らかにしていないが、当局の動きを気にした可能性がある。
そもそもフェイスブックと他の賛同企業の間には、当初から温度差があった。米ビザのアルフレッド・ケリー最高経営責任者(CEO)は7月の決算説明会で、リブラ協会への加盟について「まだ協議中で、参加するかの最終決断は協会が全ての規制要件を満たせるかどうかなど多くの要因に基づく」と述べていた。同社が署名した加盟の意向表明書は、法的拘束力を持たず「まだ正式に加盟した企業はいない」とも語り、慎重姿勢をにじませていた。
リブラ計画が世界に衝撃を与えた理由の一つが、金融関連・サービス大手の参加表明だった。ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)はすでに世界中で取引されているが、日常の買い物など商取引で使える場所が少なく、決済通貨としての普及は進んでいない。リブラ協会にはビザのような決済システム大手に加え、ウーバーなど利用者の多いサービス企業も参加を表明し、一気に普及する可能性を秘めていた。今後、協会への参加見送りが広がるとサービス開始に支障が出るのは避けられない。
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