香港、半世紀ぶり「緊急条例」発動 デモでの覆面禁止
【香港=木原雄士】香港政府は4日、行政長官の権限であらゆる規則を適用できる「緊急状況規則条例」を発動すると発表した。これに基づき、デモ参加者が顔を隠すのを禁じる「覆面禁止規則」を5日から適用する。緊急条例は立法会(議会)の手続きを経ずに規則を定める異例のもので、発動は英国統治に対する暴動が起きた1967年以来52年ぶり。民主派の反発は必至だ。
林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は4日の記者会見で「暴力がエスカレートしている。政府として止める責任がある」と強調した。覆面禁止に違反した場合は、最高で禁錮1年か2万5千香港ドル(約34万円)の罰金が科される。医療目的や宗教上の理由、警察官などが仕事上の必要で顔を覆うのは禁止しない。
緊急条例は英国の植民地時代の1922年にできた。行政長官が緊急事態と判断すれば、集会や通信の制限を含むあらゆる規則を制定できる。民主派団体の民間人権陣線は4日「政府は悪意のある規則を押しつけるために議会を飛ばした」と批判する声明を出した。
政府内には覆面禁止にとどまらず、より踏み込んだ措置が必要との見方もある。夜間の外出禁止令や勾留期間の拡大など、さらなる規制に対する懸念が強まる可能性がある。
香港では「逃亡犯条例」改正案をきっかけにしたデモが4カ月近く続いている。最近のデモ参加者は警察が使う催涙弾への対策や個人の特定を避けるためマスクなどで顔全体を覆う人が多い。親中派などから、覆面の安心感が公共施設の破壊や放火など過激な抗議活動につながっているとの指摘が出ていた。
とりわけ中国建国70年の1日以降、過激なデモが続いており、立法会の新たな会期が始まる16日を待たずに覆面禁止規則を施行する必要があると判断した。政府はこれとは別に、生徒は原則マスクを着用すべきではないとする通達を出した。
若者は警察による実弾発砲などに反発を強めており、覆面禁止だけで過激なデモを抑え込めるかは不透明だ。4日に新界地区で警官隊とデモ隊が衝突し、警官が実弾を発砲した。14歳の少年の左太ももに被弾し、病院に搬送された。意識はあるという。
4日深夜には、香港の鉄道全線が運行を停止した。駅への放火など過激化する抗議活動を受けて運行は困難と判断した。
政府がさらなる強硬策に踏み込めば若者らの反発が強まり、落ち込みの目立つ香港経済への打撃は避けられない。国際社会の批判も高まりつつあり、林鄭氏は難しい決断を迫られる。