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心の病 に「デジタル薬」 アプリが禁煙や認知症治療

医ノベーション(2)

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結核などかつて「不治の病」とされた病気の多くが、人類を脅かす存在ではなくなりつつある。抗生物質など画期的な治療薬が生まれてきたからだ。そんな薬の歴史が今、大きな転換点を迎えている。薬は効能のある物質を人体に取り込むものだという常識が崩れようとしている。新たに台頭してきたのはスマ―トフォンのアプリなどに搭載されたデジタル技術だ。科学的な創薬が始まってから100年が経過し、体の病気を治す新薬を開発する余地は狭まってきたが、まだ手つかずの「心」の病をデジタルで癒やす挑戦が始まっている。

たばこ吸いたくなれば「ガムをかんでしのいで」

202X年。昼食後に会社員Aがスマホ画面を見るとメッセージが届いていた。「たばこを吸いたくなっていますね?」

メッセージの送り主は禁煙治療用のアプリだ。「正直言うと吸いたい」と答えると「そろそろ禁断症状が出る頃だと思いました。今月いっぱい我慢すれば楽になりますよ」と励ましが届く。「どうしたらいい?」と聞くと「ガムをかんでしのぎましょう」とアドバイスをくれた。

前日には外回りから会社に戻るタイミングで、「あの喫茶店の前は通らないでください」というメッセージが届いた。喫煙スペースが広く、帰社前に一服するのがお決まりだった店だ。そういえば、この3カ月たばこを吸っていない――。

こんな禁煙治療が近い将来、現実になるかもしれない。医療スタートアップのCureApp(キュア・アップ、東京・中央)は20年にも、ニコチン依存症を治療するスマホアプリを発売する。行動療法と呼ばれる禁煙治療のノウハウを人工知能(AI)としてアプリに組み込んでいる。たばこを吸いたい気持ちの強さなどを入力すると、AIが患者の状態に合わせて助言や励ましの言葉を届ける。スマホ画面の向こうに医師がいるような感覚で、喫煙につながる行動や生活習慣を改める。禁煙補助薬では治しにくかった「ニコチンへの心理的依存から脱却させる」(佐竹晃太社長)という。

一般の薬と同じように、効果を試す臨床試験(治験)を実施した。通常の禁煙外来では半年後の禁煙継続率は5割に満たないとされるが、治験では64%に達した。国に販売承認を申請しており、20年春の保険適用を目指す。日本初の「デジタル薬」になる見込みだ。

海外でもスタートアップがデジタル薬の開発を進める。米ピア・セラピューティクスはアルコールや薬物中毒を治療するアプリで、米食品医薬品局(FDA)の承認を取得した。医療用麻薬「オピオイド」中毒を治療するアプリ開発も進める。オピオイドはがん治療の鎮痛剤などに使われてきたが、幻覚や高揚感を得られることから依存症が広がり、米国では年間5万人近くが中毒死している。販売元の米パーデュー・ファーマは集団訴訟を抱え、9月に経営破綻した。デジタル薬は社会問題に応えられる技術として注目されている。

メガファーマと呼ばれる欧米の製薬大手も新興企業と連携する。スイスのノバルティスは18年にピア・セラピューティクスと提携、アプリ開発や事業化で協力する。

歴史を振り返ると、人類は病気に効く成分を自然界に求めてきた。紀元前4000年のメソポタミア文明の時代から植物の根や葉は貴重な薬だった。古代中国の伝説上の帝王、神農は1日に100種類の草をなめ、そのうち70種類の草の中毒症状に苦しみながら薬を探したとされる。中世ヨーロッパでは薬は魔術や呪術の対象にもなった。20世紀初頭に化学や生物学にもとづく創薬が本格的に始まったが、数千年の歴史で変わらなかった常識もある。飲んだり貼ったり、注射したりして有効成分を体に取り込むことだ。

言葉や映像で患者の脳に働きかけ

デジタル薬はこの常識を打ち破るディスラプション(創造的破壊)だ。アプリで患者の心と体に働きかけるのは、物質ではなく言葉や映像だ。考え方や生活習慣を見直すよう脳に刺激を与える。いわば感覚器官から取り込んだ「情報」が薬として作用する。

これまでの薬は「体」に作用するものが多かったが、デジタル薬は「心」に働きかけるケースが多いのも特徴だ。身体の病気については、高血圧や糖尿病などの慢性疾患を中心に治療効果の高い薬が出そろいつつある。「いずれ多くの医療用医薬品が陳腐化し、OTC薬(市販薬)に置き換わる」(大塚製薬の倉橋伸幸執行役員)との声もある。

一方で、心や脳の病気は手つかずのフロンティアとも言える。依存症や認知症、うつ病も脳の病気と言える。化学物質の認知症治療薬には2000年以降、約30社の世界の製薬大手が累計6000億ドル(約65兆円)以上の研究開発費を投じたが、予防や治療に結びつく特効薬は見つかっていない。言葉や映像で脳に働きかけるデジタル薬は、こうした閉塞した状況を突破する可能性もある。

日本の製薬大手もデジタル薬に本格的に取り組んでいる。塩野義製薬は注意欠陥多動性障害(ADHD)と呼ばれる子供の発達障害を治療するゲームアプリの治験を19年度中に日本で始める。米アキリ・インタラクティブ・ラブズが開発したアプリで、塩野義は日本と台湾での独占販売権を持つ。タブレット端末でゲームを楽しむように、障害物を避けたり、画面にタッチしたりする操作で脳を刺激する。

大塚製薬は様々な顔写真を見せて短期記憶を鍛え、うつ病を治すアプリを手掛ける。米クリックセラピューティクスと19年中に米国で治験を始める。錠剤にセンサーを内蔵し、服薬をアプリで管理する精神病治療薬も米国で発売した。

デジタル薬は体に異物を取り込まないため、副作用が起きにくいメリットもある。子供や妊婦向けの治療にも取り組みやすい。また、安価に開発できることも魅力だ。キュア・アップの佐竹社長は「控えめに見積もっても開発費は従来の薬の10分の1以下で済む」と語る。かつてのスーパーコンピューター並みの能力を持つスマホを皆が手にする時代に現れたデジタル薬は、病を克服してきた人類の歴史に新たな1ページを刻もうとしている。

製薬も情報産業に

デジタル薬は製薬会社にビジネスモデルの見直しを迫る。大勢の研究者と多額の開発費を投入してつくった新薬の化学物質を特許で守り、高収益を享受する。時には同業同士で数兆円の買収合戦を繰り広げるが、それは参入障壁の高さの裏返しだ。ただ、今後は「情報産業にシフトせざるを得ない」(塩野義製薬の坂田恒昭シニアフェロー)。IT(情報技術)業界との垣根が低くなり、新たな競争が待ち受ける。

アステラス製薬は運動を支援するアプリをバンダイナムコエンターテインメントと開発中だ。デジタル薬で先行するスタートアップにはIT業界出身者も多い。「スピード感のある開発手法や意思決定の手法を取り入れている」(アステラス製薬の金山基浩・Rx+事業創成部ビジネスプロデューサー)。外からの刺激が製薬業界を変えつつある。

デジタル薬は新たなプレーヤーを招き入れる一方で、治療薬の開発が中心だった製薬会社の事業領域を広げる好機にもなる。例えば、患者の話し方や動きを分析することで認知症や脳梗塞を診断できる可能性がある。大日本住友製薬の野村博社長は「治療だけにこだわらずに、診断や予防を含むサイクルに最も良いかたちで貢献できればいい」と話す。

製薬会社がデジタル薬に注力する背景には「画期的な新薬を生み出すことが難しくなっている」(大塚製薬の倉橋伸幸執行役員)ことがある。新薬開発の最前線はがんや希少疾患など限られた領域で、遺伝子治療などの新しい手法も必要だ。新薬開発には平均20年の時間と1000億円規模の開発費がかかるが、次々に特許を生み出すことは難しくなっている。

デジタル薬は短期間に低コストで開発できる半面、競合相手は増える。必要なのは新しい時代に合った姿に自らを変えることだ。アステラスの金山氏はこう語る。「我々の社名から『製薬』が取れる日が来るかもしれない」

文 大下淳一

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先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊すディスラプション(創造的破壊)。従来の延長線上ではなく、不連続な変化が起きつつある現場を取材し、経済や社会、暮らしに及ぼす影響を探ります。

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