自転車オムニアム・梶原悠未、五輪表彰台へアクセル
1周250メートルのバンクを舞台にレースが繰り広げられる自転車トラック種目。この競技の本場欧州勢やオセアニア勢を向こうに回し、来年の東京五輪でメダルを狙うのが女子のエース、梶原悠未(22、筑波大)だ。4レースの総合成績で競う「オムニアム」で現在世界ランキング2位、今年の世界選手権でも4位に入った。レース後半の爆発的な加速と緻密な戦略を武器に、ペダルを踏み続ける。
9月22日の全日本選手権では全4レースで1位となる「完全優勝」を達成した。早々と勝敗が決した後も攻めの姿勢を貫き、「強いレースを見てもらいたかった」と梶原は満面の笑みだった。
中でも最も得意という2レース目のテンポレースの後半に、「スピード持久力」と呼ぶ爆発力で他選手を置き去りにする独走。集団を周回遅れにすると得られる20点のボーナス得点で1位を奪う作戦は、スピード自慢がそろう国際大会でも通用する得意パターンだ。
世界の強豪は後に控える第3、第4レースを見越し、テンポレースであまり足を使わない。前半に早々と得点を稼いで上位をキープすると、あとは安全運転。そんな集団の空気がふっと緩む瞬間が、身長155センチと小柄な梶原の狙い目だ。
「パワーやスピードをどこで生かすかで勝敗が分かれる。明確に走力の差がある選手にも戦術で勝つチャンスが生まれる」。オムニアムを主戦場にしてまだ3年だが、2017年には日本選手として初勝利を含むワールドカップ2連勝。今春にポーランドで開催された世界選手権はこの種目で日本勢過去最高の4位に入るなど、世界との距離を着実に縮めている。
幼いころは自由形で五輪を目指したスイマーだった。全国中学校大会出場を逃したことを機に高校で偶然知った自転車に転向した。「最初の全国大会で落車して顔をバンクに削られた時は辞めようと思った」と笑うが、競泳で培ったスタミナと体幹のぶれない走りですぐに頭角を現した。
「今年はスイミングの『級』をここまで取る」。母の有里さんと目標を立て、そこから逆算して練習をこなすという競泳時代の習慣も、緻密なレース戦略で生きる。強豪選手の過去の試合は徹底的に分析。レース中のわずかな休憩時間には、ライバルのポイントを完璧に暗記する。「極限まで追い込まれ、食べ物を戻すこともあるくらい過酷」というレース中に最適解を導き、勝利をつかんだ時の喜びは格別だ。
「なりたい自分を想像し、わくわくした目標があれば努力できる」。次戦は17日に韓国で始まるアジア選手権。4連覇がかかるが、「世界選手権(来年2月開幕、ドイツ)や五輪でメダルを取るつもりで調整している」と既に視線は先にある。
日本女子自転車界にはまだ五輪のメダルがなく、静岡県伊豆市が舞台となる東京五輪の女子オムニアムは最終日の開催だ。「他競技や自転車の仲間が活躍すると思う。最後にもう1枚取って、メダルをかけて閉会式に出たい」。そんな自分を思い描くことが今、何より大きな原動力になっている。
(鱸正人)
性格の異なる4つのレースを1日でこなすオムニアムは、スピード、持久力、戦略眼など総合力が問われる過酷な種目だ。五輪では12年ロンドンから採用され、東京は3大会目となる。
最初のスクラッチ(7.5キロ)はバンクを30周し着順を競う、トラック版ロードレース。続くテンポレース(同)は周回ごとに1位通過すると1点が入り、その通算得点で順位を決める。3つ目のエリミネーションは2周するごとに最後尾が脱落するサバイバルレース。密集での位置取りに高い技術が求められる。
この3レースはそれぞれ1位なら40点、2位は38点などと着順に応じてポイントが与えられ、各選手はこれを持ち点に最終ポイントレース(20キロ)に臨む。計80周のうち10周ごとの着順によって5~1ポイントが得られ、ゴール時のポイントは2倍になる。4レースの合計ポイントで最終成績が決まる。