米台訴訟合戦、TSMCが米GF提訴「半導体で侵害」
【台北=伊原健作】半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)は1日、同業世界3位の米グローバル・ファウンドリーズ(GF)を特許侵害で提訴したと発表した。GFは8月に「米国製造を守る」などとしてTSMCを特許侵害で提訴。保護主義を掲げるトランプ米政権に同調してTSMCを揺さぶる構えで、同じ訴訟という方法で対抗する。
TSMCによると9月末に米国、ドイツ、シンガポールの裁判所でGFを特許侵害で同時提訴した。半導体製造に関わる25項目の特許を侵害したとし、該当特許を用いたGF製品の販売差し止めを求めている。損害賠償も請求したが、金額は非公表とした。
「米国では過去5年、設備購入などに200億ドル(約2兆1600億円)以上を投じてきた」。声明では米産業界への貢献に言及し、GF側の訴訟をけん制した。
GFは8月に米・独の裁判所でTSMCに対し特許侵害訴訟を起こした。「米国や欧州の製造基地を守るため」と強調しており、業界では「米中摩擦が激化するなか、米政府を巻き込みTSMCを揺さぶっている」(台湾経済研究院の劉佩真氏)とみられていた。
TSMCは米アップルのスマートフォン、iPhoneの頭脳となる半導体などを主に台湾で生産する。最終製品の組み立て拠点が集積する中国に輸出するモデルで、米インテルなどと並ぶ世界半導体「ビッグ3」に成長した。
GFはTSMCに製造を委託するアップルや半導体設計大手のクアルコムなども同時に提訴している。中国生産の機器を米市場に送り出すサプライチェーン(供給網)そのものを揺さぶり、米国生産を主体とする自社に有利な環境を作り出す意図が透ける。米国際貿易委員会(ITC)は9月26日にGFの訴訟を受けTSMCなどへの調査を始めると発表した。
ただ業界では「TSMCが蓄積する特許は膨大で、GFに勝ち目があるかは不透明」(台湾の半導体技術者)との見方が多い。GFはTSMCの資金力や技術力に対抗できず、昨年に回路線幅を7ナノ(ナノは10億分の1)メートルまで微細化する最先端技術の開発から撤退した経緯もある。
TSMCの株価は1日に前営業日比約3%上昇し、上場来高値を更新した。iPhone向けの需要拡大期待が高まっている。