ラグビーが日本に根付くために 是が非でも8強へ
スポーツコメンテーター フローラン・ダバディ
ラグビーワールドカップ(W杯)が開幕した。大会が成功したのかどうかを判断するにはまだ早いが、日本―ロシアの開幕戦は18%の視聴率を記録した。これはバレーボールや柔道、競泳といった日本でなじみ深い競技をしのぐ数字だ。
日本戦以外も注目されている。ニュージーランドやフランスの初戦も高い視聴率を獲得した。テレビが苦境の時代に大健闘といえる。ラグビーW杯はサッカーW杯、五輪に次ぐ国際的なスポーツの祭典だ。こうしたイベントに対する日本人の旺盛な好奇心は相変わらず健在だ。
■オールブラックスが支えるラグビー界
世界の競技人口や普及度ではサッカーに遠く及ばないラグビーがこれだけの支持を得られる一因は、ニュージーランド代表の「オールブラックス」にあると思う。黒いジャージーに身を包んだ英雄たちは100年以上にわたり、数々の伝説を紡いできた。
特定のスポーツで、ひとつのチームがこれほど圧倒的な存在であり続けた例は見当たらない。サッカーのFCバルセロナ、米大リーグのヤンキース、クリケットのインド代表でも及ばない。オールブラックスの強さは赤土でのラファエル・ナダル(スペイン)を想起させ、ラグビー界の帝国と呼ぶほかない。
ニュージーランドの子どもたちは年齢ではなく、体重別でプレーする。体格が許せば10歳も14歳も一緒。それが最高の選手を育てる近道になっている。代表入りした選手は代々伝わる"聖典"を受け取る。そこには彼らが守るべき掟(おきて)や理想が書かれている。中世のエリート騎士や英国の秘密情報機関「MI6」のスパイ、「スター・ウォーズ」のジェダイなどを思わせる話だ。彼らはそれほどの使命感をもち、国の威信をかけてプレーしている。
この原稿が出るころには日本―アイルランド戦の結果が分かっているだろう。リーチ・マイケル主将率いるチームは新たな歴史を刻めただろうか? 2015年の日本代表は南アフリカを破る金星を挙げ、五郎丸歩が人気者になった。しかしその熱はじきに冷めてしまった。今回のW杯はラグビーをより深く日本に根付かせるための戦いでもあり、それにはアイルランドかスコットランドを倒してベスト8に進出するのが絶対条件となる。
僕はあるテレビ局の幹部からこんな趣旨のことを言われた。「日本代表の半分が外国人なんて多すぎる」。でも本当にそうだろうか? 5年前、日本メディアの多くは「大坂なおみは純粋な日本人ではないから、関心を持たれないだろう」と踏んでいた。だが実際はそんなことは関係なく、彼女の活躍と真摯な人柄は多くの日本人をとりこにした。大坂同様、ラグビー日本代表のトンプソン・ルークもリーチ・マイケルも日本を心の底から愛している。それは疑いようのない真実だ。そして、海外の人たちにとって、彼らは代表的な「あしたの日本人」なのである。
ラグビーが日本に根付くことを願う僕としては、来日したラグビーファンが羽目を外しすぎないことを祈っている。28日の晩、ビールを飲み過ぎたアイルランドのファンたちが繁華街で暴れるようなことはなかっただろうか? 昨今は、多くの日本メディアが訪日外国人の不作法に眉をひそめている。ラグビーW杯は、すべての人に幸せと感動を残す祭典であってほしい。