内村の穴、トリオで埋める 10月4日から世界体操
体操の世界選手権が10月4日からドイツ・シュツットガルトで行われる。昨年大会で団体総合3位に甘んじた日本男子は、内村航平や白井健三ら金メダルに輝いた2016年リオデジャネイロ五輪メンバーが全て入れ替わり、新しい力を問われている。昨年優勝の中国、2位ロシアとの戦いに挑むフレッシュなチームをけん引するのは、3人の「エース候補」だ。
内村のいない世界大会は12年ぶりとなる。両肩の負傷などで国内選考会を勝ち抜けなかった「キング」の穴は大きいが、30歳の内村にいつまでも頼ってはいられない。白井も落選した今大会は5人のうち3人が初代表という顔ぶれで臨む。
■五輪メンバー不在、新世代にエースの自覚
「本当に自分がエースになるんだという自覚、自分がやらなければいけないという意識がついてきている」。日本協会の水鳥寿思・男子強化本部長が頼もしげに語るのは、今チームの柱と期待する弟・翔と兄・航の谷川兄弟と萱和磨だ。
今春に社会人となった谷川航と萱も含めて3人とも順大を拠点としており、3人は代表でも所属でも常に一緒に練習を積む。「毎日同じ体育館にいるのは刺激になる。試合でもいつも通りの雰囲気でできるのは強み」(谷川航)というトリオは互いにライバルであり、心強い仲間でもある。
中でも進境著しいのが谷川翔だ。昨年の全日本選手権で11連覇を逃した内村と入れ替わるように最年少優勝、今年は2連覇を果たした。ブレの少ない美しい演技姿勢と正確な着地が武器。試合会場でニコニコ笑いながら投げキスをする陽性のキャラクターも含めて、スター性を漂わせる。
昨年は最終選考会のNHK杯で失速し、世界選手権は補欠として現地に赴く悔しさを味わった。「新しい日本チームでチャレンジャーとして臨む。東京五輪につながる何かを持って帰ってきたい」と気合は十分だ。
オールラウンダーとして「ポスト内村」の期待もかかる翔に対し、2学年上の兄・航は冷静に現状を見つめる。「航平さんは絶対的なエースとして本当に心強かった。そこを翔ひとりで全部背負うのはきつい部分がある。僕や(萱)和磨がサポートして、うまくみんなの力を合わせて航平さんの分を補いたい」
控えめに弟を立てる兄だが代表入りは3年連続で、演技の安定感ではむしろ弟を上回る。18日の試技会ではトップの6種目合計86.650点をマークした。安定感だけでなく、得意の跳馬では最高難度の大技「リ・セグァン2」も持つ。成功率を上げており、日本の得点源として団体金メダルに欠かせない。
経験値なら15年の世界選手権団体制覇を知る萱の存在も大きい。合宿では高校3年生の橋本大輝と同部屋で緊張をほぐす仕事も担っている。
「僕の役目は6種目をミスなくこなすこと」。得意のあん馬や平行棒を中心に、派手さはなくとも着実に点数を稼ぐ萱は貴重だ。谷川兄弟とともに出場した7月のユニバーシアードでは個人総合で優勝している。
昨年大会の団体総合は中国、ロシアに3点近い差をつけられた。春の代表決定以降、3人を中心にDスコア(演技価値点)の引き上げに注力してきた。完成度は高いとはいえないが「(2チームと)勝負ができるレベルまで上がってきた」と水鳥本部長。東京五輪の前哨戦としてライバルに重圧をかけるためにも、新生・体操ニッポンの強さを示したい。
(本池英人)
19日の試技会では杉原愛子が左足首捻挫で演技できなかった。2011年から代表に居続けるベテラン、寺本明日香も右足首を痛めて満足に練習できない状態にある。「アクシデントもあって(上位8チームの)予選突破はどうなんだろうという厳しい状況。でも結局やるしかない。全力を尽くすのみです」と悲壮感をにじませる。