自国開催のW杯、一体感カギ
(廣瀬俊朗)
日本は4年前より間違いなく力を付けている。過去の日本になかったキックを使った戦術が磨かれ、戦い方の幅は広がった。スーパーラグビーで世界の舞台を経験した選手も大幅に増えた。7月に強敵のフィジーと対戦。相手の得意な逆襲速攻を封じ、完勝したことも日本の進歩を示す。
もちろん課題も残る。8月のトンガ戦、9月の南アフリカ戦ではブレークダウン(タックル後のボール争奪戦)でボールを奪われたり、球出しを遅らされたりした。日本の速い攻撃を防ぐため、どの相手もここに重圧をかけてくる。W杯の焦点の一つになるだろう。
初の自国開催となる今回、カギはプレー以外にもあると考える。勝っている時は自国のファンの応援が後押しとなり、全てがうまく回るだろう。一方で負けた時には大きな重圧がかかる。中3日の試合があった4年前と違い、今回は1週間に1試合のペース。メンバーを大きく変える必要がないので、控え組が固定することもあり得る。
主力組との温度差が出かねない状況で一体感を保てるか。今回はジョセフHCら、スタッフのほとんどがW杯は初めて。リーチ主将らリーダー陣も試合だけで手いっぱいになるかもしれない。
チームを1つにするため、必要な言動をとれる人間がいるか。ここはベテランの田中史朗に期待している。今回は専門職のSHがメンバーに3人いる。4年前より田中の出番が減ったとしても、W杯2大会に出た経験を生かしてできることはたくさんある。
僕も前回大会では一試合も出られなかったが、「チームのために」というぶれない姿勢を周りに見せることが大事だと考えていた。ラグビーは試合の2日前にメンバーが発表される。出場できないことが決まった後も練習で手を抜かず、対戦相手の分析をして主力組を全力で支える。ベテランが率先してやることで、他の選手もついてきてくれるものだ。
重圧への対処では、自分達がコントロールできること、やるべきことだけに集中するというアプローチも大事。その意味で、1次リーグの対戦順は良かった。開幕戦のロシアは難しいことをしないチーム。日本がやるべきことをやれば勝てる。相手の強みであるブレークダウンとキックにうまく対応し、得意な速いテンポの試合運びに持ち込めれば、続くアイルランド戦に向けていい流れをつくれるだろう。
開幕を前に、様々な日本のもてなしが世界的なニュースになっている。北九州市でのウェールズの練習には1万5000人が訪れ、国歌の大合唱で歓迎した。海外の人が日本を再訪したいと感じ、日本人が海外の人との共同作業を普通に思えるようになることが、大会の一つの成功だと考えている。海外出身者と日本人が一体になって戦う日本の活躍も、その絶好の追い風になるだろう。
(元日本代表主将)