諫早干拓訴訟で差し戻し 最高裁判決、「ねじれ」続く
国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、国が潮受け堤防排水門の開門を強制しないよう求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は13日、国の請求を認めた二審・福岡高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。開門の是非は判断しなかったが、開門命令の無効化もありうるとの方向性を示唆した。
開門、非開門の相反する義務を国に課した司法判断の「ねじれ」は続くが、差し戻し審では国が主張する確定判決後の事情変化などを踏まえ、開門の強制が権利の乱用に当たるかが判断される見通しだ。
排水門を巡っては、開門を命じる2010年の福岡高裁判決が確定。これに基づき、開門に応じない国には制裁金(1日につき90万円)が命じられた。一方、長崎地裁が13年の仮処分や17年の判決で開門差し止めを命じた。国は今回の訴訟でねじれを解消しようと10年の確定判決を事実上無効化するよう求めていた。
二審判決は「漁業権が消滅し、開門請求権も失われた」として国側勝訴とした。しかし、最高裁は漁業者がすぐに新たな漁業権の免許を得ている点を挙げ、開門命令の無効化を認めたことを「是認できない」と否定した。確定判決から時間が経過して事情が変化したかについて審理を尽くすために、同高裁に差し戻すことを裁判官全員一致で決めた。
菅野裁判官(裁判官出身)は「紛争が長期化、混迷化していることに鑑み」て補足意見を付けた。漁業への影響が変動する可能性があるとして5年限定の開門を命じた点などを挙げて「留保付きで暫定的な性格が強い」と指摘。開門を命じた10年の福岡高裁の確定判決には不確実性があったとし、その後の事情の変化を重視する姿勢を示した。
国も上告審弁論で漁獲量が増加に転じたことなどを主張し「判決当時とは事情が変わり、開門強制は権利の乱用だ」と無効化を求めていた。
補足意見に法的拘束力はないが、国の主張を差し戻し審で検討する必要があるとの意見を付けることで、無効化の可能性もにじませた内容だ。
同小法廷は6月、漁業者らが開門を求めるなどした別の2件の訴訟で漁業者側の上告を棄却し、「開門しない」方向の司法判断を示している。
訴訟では一審判決は国の請求を退けたが、二審で国が逆転勝訴。漁業者側が上告した。
漁業者側は「国が確定判決を守らないことを裁判所が認めるなら、誰も裁判所を信用しなくなる」と主張してきた。これに対し国側は、漁業者側の開門請求の前提となる漁業権はすでに消滅し、請求権は失われたとした上で、漁獲量が増加傾向に転じるなどの事情の変化があったと主張。確定判決に基づく制裁金は許されないと訴えていた。