諫早干拓、13日に最高裁判決 司法のねじれ解消するか
地元は問題長期化に疲弊
国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、潮受け堤防排水門の開門命令の効力が争われた訴訟の上告審判決が13日、最高裁で言い渡される。「開門」と「非開門」が並立する司法判断のねじれが解消されるかが最大の焦点だ。ただ、司法の相反が解消しても、漁業者や営農者が複雑に対立する構図は変わらない。地元は問題の長期化に疲弊の色を濃くしている。
「優良で広大な農地という触れ込みでしたね」。長崎県諫早市の干拓地で営農がスタートした2008年当初から野菜の栽培を始めた男性(72)はため息をつく。「いざ育ててみると、海流が来ないので冬は寒く、霜でだめになることも多い」
泥地の干潟は水はけも悪く、途中からハウス栽培に切り替えざるをえなかった。「国の事業として始まったので支援や相談に期待したが、(国は)現場を何も見ていない」。採算がとれず、男性は18年に営農を辞めた。
諫早湾は「ギロチン」と呼ばれた堤防で閉め切られた1997年以降、たびたび赤潮が発生。ノリの不作などの漁業被害が表面化した。周辺の漁業者は「閉め切りが原因だ」と主張、開門して調査するよう求めたが、干拓を進める長崎県や国は塩害を懸念し反発。対立が深まり、法廷闘争にもつれ込んだ。
漁業者側が開門を求めた訴訟で、福岡高裁が10年に国に開門を命じると、当時の民主党政権は上告せずに判決は確定した。佐賀県太良町の漁業者、平方宣清さんは「これで全部解決すると思った」と振り返る。
ところが国は開門しない姿勢を崩さず、営農者側も開門差し止めを求めて提訴。長崎地裁が13年の仮処分決定などで開門差し止めを命じたことで、司法判断のねじれが生じた。
ねじれを解消したい国が、10年の確定判決時とは「事情が変わった」として開門を強制しないよう求めたのが今回の訴訟だ。一審・佐賀地裁は国の請求を退けたが、福岡高裁は18年に「漁業者側の漁業権は消滅し、そもそも開門請求権がない」などとして、国を開門命令に従わせるための制裁金の執行力をなくす判断を示した。
今年7月に最高裁で開かれた上告審弁論で、漁業者側は「国が確定判決を守らないことを認めるなら、裁判所を誰も信用しなくなる」と主張。国側は漁業者の請求権は失われていると訴えた。
最近の司法判断は開門を認めない内容が目立つ。今年6月には別の訴訟で「開門しない」との判断を出した15年の福岡高裁判決について、最高裁は開門を求める漁業者側の訴えを退けた。13日の判決では、最高裁が長年の法廷闘争に終止符を打つような判断を示すかに注目が集まっている。
もっとも、仮に司法判断のねじれが解消しても、長年の対立が生んだ複雑な地元のしこりが解けるわけではない。
漁業者の中にも、開門せず国が示した100億円規模の基金案を受け入れて和解すべきだとの声がある。一方の営農者側にも「閉門したままの農業には限界がある」と訴える人も出てきた。
干拓地で農業を営む60代男性は「開門しないと決まれば安心できるかもしれないが、地元を分断してまで続けたいのか、自分でも分からなくなってしまった」と肩を落とす。「しこりのない本当の解決は司法では不可能だと思う」
漁業者側弁護団の馬奈木昭雄団長は「国は司法判断をないがしろにしてきた。(最高裁によって)一定の方向性が示されたとしても、それぞれの立場の人が前提なく話し合える協議の場をつくるべきだ」と訴えている。