万能型のヤクルト山田哲、前人未到の記録に挑む
同一シーズンで打率3割、30本塁打、30盗塁の「トリプルスリー」を3度達成しているヤクルトの山田哲人が新たな金字塔に挑んでいる。プロ野球史上、誰も到達したことがない40本塁打、40盗塁の「フォーティー・フォーティー」だ。8月は本塁打8本と盗塁9個を積み重ね、記録達成へ着実に歩を進めている。
8月29日のDeNA戦。四回の先頭打者、山田哲はフォークボールにバットを合わせたが、打球は力のないゴロとなった。それでも快足を飛ばして走る。焦った遊撃手がファンブルして出塁すると、けん制球を何度も投げられながらも、次打者の5球目にスタートを切って二盗に成功。続く雄平の中前打ですんなりと生還した。出塁から盗塁、そして本塁生還。足を生かして流れるように奪った先制点に「理想的だった」とうなずいた。
この盗塁が今季30個目。トリプルスリーを達成した2015、16、18年に続く4度目の大台到達となった。シーズン終盤に差しかかった8月は、隙あらば次の塁を奪うという姿勢がこれまで以上に徹底されている。29日の試合では六回にも二盗を決めるなど、セ・リーグ盗塁ランキングのトップをひた走る。
■連続盗塁成功の日本記録更新続く
驚くべきは盗塁の成功率だ。昨季途中から現在まで38回続けて成功中で、11~15年の福田秀平(ソフトバンク)の32を抜いて日本記録の更新が続く。一般的に「成功率70%以上なら走った方がいい」とされるなか、今季ここまで33個の盗塁を記録している山田哲の成功率は100%。盗塁数でセ2位タイの大島洋平(中日)が成功29に対して失敗7(成功率81%)、近本光司(阪神)が成功29の失敗13(同69%)ということからも、相手バッテリーの厳しい警戒網をものともしない山田哲の足のすごさが分かる。このまま一度も失敗することなく盗塁王となれば、それも史上初となる快挙だ。
「チームからは貪欲に走ってくれと言われている。行けるときに行くスタイル」と山田哲。後ろの打線にはバレンティン、雄平、村上宗隆と強打者が並ぶ。塁上の山田哲の足を気にかけながら後続打者との勝負を強いられる投手は、どれだけ神経をすり減らされることか。
今季は4度目のトリプルスリーも期待されたが、上向かない打率が壁となり達成は厳しくなっている。打率は5月の大型連休中に3割を割り込むと、そこから一度も再浮上することなく終盤を迎えた。足元で2割7分5厘という数字は、コンスタントに3割を達成してきた山田哲にとって不本意そのものだろう。
特に2割5分という得点圏打率が物足りない。チームは5月から6月にかけてセ・ワーストとなる16連敗を喫し、その後も低空飛行が続く。山田哲を含めて勝負どころであと一本が出ないところが苦しい。
■ペース上がるも問題は本塁打40本
トリプルスリーは難しくても、日本では前人未到のフォーティー・フォーティーの可能性はまだある。この記録に最も近いところまでいったのは秋山幸二(西武など)で、1987年に43本塁打38盗塁という数字を残した。そこから30年以上もの時を経て、スピードとパワーを兼ね備えた万能型スラッガーの山田哲が大記録に迫っているというわけだ。
このままのペースなら盗塁数は40を超えそう。問題は現在33本の本塁打だ。15、16年と38本のアーチを放ったが、40本の大台に届いたことはない。本人も記録達成への思いを問われると「無理ですね」とつれない返事。だが、残り試合は多くはないものの、8月は8本とペースを上げてきているだけに周囲の期待はいやが上にも高まる。
5月末から最下位に沈むヤクルトだが、本拠地の神宮球場にはなお多くの観客が詰めかけている。なかでも今季大ブレークして本塁打と打点の2冠を射程圏とする19歳・村上と、未到の記録に挑む山田哲への声援はひときわ大きい。浮かない気分でいる燕(つばめ)ファンに、日本初のフォーティー・フォーティー達成という吉報を最後に届けられるか。
(木村慧)