昭和天皇の直筆原稿、元側近が保管 学習院に寄贈
昭和天皇の晩年の直筆とみられる和歌約250首がつづられた罫紙(けいし)などの文書が5日までに、保管していた元側近の男性から学習院大史料館(東京)に寄贈された。推敲(すいこう)段階の歌もあり、同館は分析終了後に一般公開も検討する。専門家は「昭和天皇の晩年の心情が強く反映された貴重な歴史的資料だ」と話す。
保管していたのは、昭和天皇の身の回りの世話をする「内舎人(うどねり)」を長く務めた元宮内庁職員の牧野名助(もりすけ)さん(93)。昭和天皇が死去する数カ月前の1988年秋から所持品の整理が進められていたといい、罫紙は当時の女官長から「処分するように」と手渡された品に含まれていた。「一読して簡単に廃棄できないと思った」と振り返り、自宅で保管を続けた。
罫紙は計29枚。「宮内庁」の印字があり、つぎはぎされた紙に和歌が鉛筆書きでつづられていた。晩年の85年以降の作とみられ、テーマは地方訪問時の印象や家族、病など多岐にわたり、平和や国の安寧を祈る歌もあった。また旧字が多用され、誤字も散見された。
思はざる病にかゝり沖縄のたびをやめけるくちおしきかな
昭和天皇は87年10月に国民体育大会出席のため沖縄訪問を計画していたが、手術のため中止に。歌集「おほうなばら」に収められた昭和天皇の和歌「思はざる病となりぬ沖縄をたづねて果さむつとめありしを」の推敲前とみられ、戦争で多くの犠牲者を出した沖縄への訪問が、かなわなかったことへの無念さがにじむ。
名古屋大の河西秀哉准教授(日本近現代史)は「昭和天皇の直筆が見つかるのは珍しい。推敲によって表現が整えられる前の段階のため、より強い気持ちが読み取れる。昭和天皇の戦争に対する思いは未解明の部分が多く、象徴天皇制の研究にとっても非常に貴重な資料だ」と話す。