香港行政長官、「逃亡犯条例」改正案の撤回を表明
【香港=木原雄士】香港政府トップの林鄭月娥・行政長官は4日、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回すると表明した。香港では改正案をきっかけに6月から大規模デモが続いており、一部の要求を受け入れて事態収拾を狙う。ただ、若者らの要求は政治改革にも広がっており、抗議活動が収束に向かうかは不透明だ。
林鄭氏は4日、テレビを通じて演説し「暴力は解決策にならない。争いを対話に置き換えて解決策を探そう」と述べた。改正案撤回のほか、政府と市民の対話の枠組みや、社会問題を討議する専門家の委員会をつくると表明した。
改正案を巡っては、中国共産党に批判的な活動家らの中国本土への引き渡しにつながりかねないとの懸念から市民が反発。6月以降、100万人を超える大規模デモが3回あった。林鄭氏は6月に条例改正を期限を定めず延期すると表明。7月には「条例案は死んだ」と発言したものの、立法会(議会)からの正式な取り下げは拒んでいた。
改正案の完全撤回はデモ参加者が求める「五大要求」の一つ。ただ、香港政府は事実上の改正断念を表明しており、実質的な効果は限定的とみられる。
林鄭氏は警察の暴力行為を調べる独立委員会の設置や、有権者が1人1票を投じる普通選挙の導入など他の要求は拒否した。若者らの間では、警察の厳しい取り締まりや市民に向き合わない政府の姿勢に不満がたまっており、デモが収まるかは不透明だ。
民主派の立法会議員は改正案撤回を受けて記者会見し「6月に撤回していればこんな事態にならなかった。市民の懸念はもはや改正案だけではない。完全な政治改革を求める」などと述べた。
香港株式市場では4日、政府が条例改正案を撤回するとの報道を受けハンセン指数が急反発した。過激なデモは企業の経済活動の打撃になっていた。デモが収束に向かうとの見方から投資家心理が改善した。ハンセン指数は前日比4%近く上昇して取引を終えた。