「うんこミュージアム」をヒットさせたのはうんこのことをクソほど考えた32歳だった
U40の匠
「#うんこミュージアム」とインスタグラムで検索してみてほしい。無数のカラフルな「うんこ」と写る笑顔の女性たちの投稿が3万件超ヒットする。仕掛け人はアカツキライブエンターテインメントの小林将だ。「日本にはエンタメが不足している」。気軽に楽しめるエンタメ作りに小林が選んだのが「うんこ」だった。
うんこはもともと、ミュージアムを共同開発した面白法人カヤックが取り組んでいたテーマだったが、世の中に爆発的に広がっていたわけではなかった。それでも、小林は新施設のテーマをうんこにすることを即決する。
小林の嫌いな言葉は「既存の価値観」だ。「うんこの表面的な面白さだけを捉えると失敗する」と分析し、「世界観を変える体験」を提供するのにうってつけのテーマと考えた。
「言葉のインパクトがヒットを生んだと思われるかもしれないが、うんこ自体は勝因の3分の1。残りの3分の2こそ重要だった」という。勝敗を分けた一つは、うんこをどのように扱うかだった。ターゲットはうんこネタとはかけ離れた存在の若い女性だ。
「うんこの本質」を探すため、小林らは合宿を実施。10人が会議室にこもり、「うんことの思い出」や「鉄板笑い話」など既存のうんこ観を真剣に話し合った。既存の概念をぬぐい去り、新たなうんこ観を形成するためだ。
会議は歴史的背景にも及ぶ。「うんこは農業国の日本人となじみがあったが、公衆衛生の発達で生活から離れてしまった」。約7時間の会議の末、現代では隠す存在になったうんこの「解放」をコンセプトに据えることが決定した。
単純に既存の逆を行った「カワイイ」にとどまらず、「徹底的に掘り下げることこそ成功のカギだった」と振り返る。チームがぶれたときは「何で既存のうんこ観じゃだめなんだっけ?」と必ずコンセプトに立ち返れた。
勝因の2つめは「日本人に合ったエンタメ」に仕上げたことだ。シャイな日本人にうんこという奇抜なテーマをぶつける。「うんこミュージアムの世界にお客さんが入り込めないのではないか」という不安がぬぐえなかった。
小林らは、オープン3カ月前、「エンタメ先進国」のロサンゼルスを訪れ、20ほどのエンタメ施設をまわった。「日本人の自分たちが楽しめたエンタメは、導入に工夫を凝らしていたり、世界観がしっかりしていた」という。「日本人にこそ導入が重要」。土壇場での気づきだった。
こうして生まれたのがマイうんこメーカーだ。便器に座って一人一人がうんこを製造する。大人もすんなり入り込める仕掛けにした。スタッフの指導も徹底。ふざけたり、恥ずかしがっていたりするスタッフをみると、すかさずミュージアムの世界観を伝えた。
小林が新しい体験の提供と同時に目指したのは新しいタイプのエンタメだ。以前から「日本にはエンタメが足りない」と感じていたという。気軽にいけるような「カジュアルなエンタメ」をうんこミュージアムで体現した。
「カジュアルエンタメ」は、既存の芸術のように解釈を押し付けられず、自分の感性で楽しめることもポイント。インスタ映えは、自由な感性を実現する大事な役割を担っている。実は、ミュージアムは実際に見るより、写真映えするように作っているという。
「大事なのは面白いものをつくること。既存の延長線上で物事を考えるのではなく常に思考をフラットにしている」。ギリギリでも変更をいとわない小林は、周囲の目に唐突に映ることもある。
自分が考え抜いている分、半端な仕事をしている人には厳しい。「面白いものができないなら考えていないか、向いていないかのどっちか。皆考えていないんですよ。そっちのほうが楽だから」ときっぱり。
考え抜くために、仕事の優先順位は明確にしている。やる、やらないがはっきりしていると「しょうがないな」と周囲も支えてくれるという。その分、面白いことを考える。
うんこはこの秋、海を渡る予定だ。期間限定で上海に出展する。しかし、「うんこのことを誰よりも考えた」男は、既に「うんこの次」を画策している。
(1) 音楽の楽しみ方を変えた男 大庭寛(ソニー)
(2) 観る前から面白いと言われる番組仕掛人 谷口達彦(AbemaTV)
(3) スタジアム満員請負人 原惇子(横浜DeNAベイスターズ)
(4)日本人のエンタメ偏差値を上げた男 小林将(うんこミュージアム)
(5)コンビニスイーツの革命家 東條仁美(ローソン)
(6) 鋭意取材中
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