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インスタがショーウインドー 見つけた働き方

ストーリー ギグエコノミーの担い手たち(1)

(更新)
詳しくはこちら

仕事って、どこでするんだろう。

仕事って、どうやってもらうんだろう。

仕事って、誰のためにするんだろう。

電車に揺られて会社に行き、取引先とやりとりし、時には上司に怒られてしょんぼりする。こんな働き方が変わることでもたらされる経済がこう呼ばれている。

「ギグエコノミー」

ギグの由来は英語のgig。一度限りの演奏会を指す言葉を、自由に働く人の集まりにみたてたようだ。専門家によると、それは「インターネットを通じて単発の仕事を受注する就労形態」だという。

難しい解説の向こうで、新しい時代の担い手たちは泣き、笑い、自分を見つめ直している。

数百の「いいね!」

「早くこのコーデしたい」

「次の投稿楽しみにしてます」

フォロワーのコメントがインスタグラムに次々に浮かぶ。サクマラン(27)にとって、インスタはイラストを売り込む「ショーウインドー」だ。

イラストレーターのサクマランは洋服の着こなしや化粧をイラストにして、インスタに投稿していく。2018年4月に開設し、1年半足らずでフォロワー数は2万人近くになった。1つの投稿に数百の「いいね!」がつく。

好きなことしかしていない

インスタでの発信が軌道に乗ったサクマランは今、ネットを通じてイラストの仕事を請け負う。ウェブメディアで2つの連載を抱え、企業とのコラボレーションなども舞い込む。講談社の美容誌「VOCE(ヴォーチェ)」のSNS(交流サイト)を運営するサポーターの仕事も引き受けた。

「いまは好きなことしかしていないし、毎日楽しい」

屈託のない表情で笑えるようになるまでには、泣いた日々もあった。

1年半前までは保育士だった。

普通の人たちが転職

3年勤めた幼稚園を退職した際は、好きな絵を仕事にできないかと思い、デザイン会社の求人に応募してみた。

「経験者優遇」。不採用だった。そこでまた保育士として働き始めた時に絵本の学校があることを知り、仕事にも役立つだろうと考えて週1回、通った。

思い出してみれば、絵本の学校に通ったことで、別の人生に向かう歯車が回り始めていた。

学校の講師に紹介してもらって展示会に行き、出会うイラストレーターは意外にも普通の会社員から転身した人が多かった。「自分にもできるかも」。仕事を終えてから深夜までイラストを書くようになり、保育園は18年3月にやめることになる。

お金がなくなる

「根拠のない自信があった」ものの、保育士をやめた直後は仕事がない。インスタのフォロワーはもちろんゼロ。給料という定期収入がなくなり、自宅にこもってひたすらイラストを描く日々。お金がなくなる怖さで泣いた。

とはいえ、後戻りする気はなかった。あり余る時間はひたすら人気インスタグラマーを見て、どうすればフォロワーが増えるのか研究した。

フォロワー1万人超え

少しずつ人気が出始め、最初の仕事がきたのはフォロワー数が3000人を超えたころのことだ。1万人台に乗せると軌道に乗り始めた。8月末でアルバイトの美容部員をやめ、今は完全なフリーランスとして働く。ギグエコノミーの担い手だ。

ギグエコノミーの担い手はどれくらいいるのだろうか。日本に公式の統計はないが、内閣府が19年7月に公表したフリーランスの推計からうかがい知ることはできる。日本のフリーランスは会社員らの副業や法人を設立した人も含め最大で341万人。就業者全体の約5%にあたる。本業がフリーランスという人に限ると158万~228万人となり、最大で就業者の3%程度になる。この比率は米国(6.9%)の半分以下だ。

米国はライドシェア大手のウーバーテクノロジーズのようなネットを通じたサービス仲介が生まれた国だ。ギグエコノミー発祥の国とも言える。一方で日本でも個人の暮らし方は多様になり、年功序列と長時間労働という日本型雇用になじめない人も増えた。ギグの担い手はこれからも増えていくだろう。

ウィンドウズ95でスキル

フリーランスのIT(情報技術)エンジニア、朝山尚樹(29)は週3日、フリーランスのIT人材仲介を手掛けるギークスの本社に通う。朝山が請け負うのは企業の営業支援システムの整備や拡張、ウェブサーバーのインフラ整備など。他の日は事業会社のIT業務の手伝いなど3つの肩書を持つ。フリーランス歴は10年以上のベテランだ。

朝山の自宅には子どもの頃からウィンドウズ95を搭載したパソコンがあった。システムを壊しては復元するという繰り返しでスキルを身につけたのだという。ギークスのサイトを使って仕事を探したのがきっかけで、同社の仕事を請け負う。

子どもの送り迎えを

過去に1度、東証1部の上場企業で会社員として働いていたこともあった。ところが家庭の事情から子どもの保育園の送り迎えを1人ですることになり、朝から夜まで会社にいることはできなくなった。会社に時短勤務は認められたものの、生活するのに十分な給料はもらえない。「年功序列型の賃金や社内テストなどは自分の生活に合わなかった」

いまは午前6時30分に起き、子どもの朝ご飯を作り、8時30分ごろに次男を保育園に送る。ギークスに出社する日は電車に乗って10時すぎに渋谷のオフィスに着く。夜には妻とネットフリックスを見たり、1人でツイッターを見たりしてゆっくり過ごす。

3倍の成果を出す

休みになれば子どもと遊び、ギターを弾き、ゲームをする。この間、メールが来るなど仕事が発生することもあるが、「公私の仕切り方は意識していない。今の方が会社員よりやりやすい」という。「もらうお金の3倍の成果を出す」のが朝山の信条。仕事ぶりの評判はよく、休みがあると知り合いから仕事の誘いが来る。

稼ぎは5倍に

ギグエコノミーの担い手たちはどれくらい稼げるのだろうか。ウェブ集客コンサルタントの大塚コウ(38)に聞いてみた。大塚はクラウドソーシングのランサーズ(東京・渋谷)でトップクラスの売り上げを誇る。

年商1700万円超――。

東京都江東区にある自宅兼オフィスに閉じこもる「引きこもりフリーランス」は、ランサーズ経由の仕事だけで会社員のエリートを大きく上回る収入がある。ウェブ系企業の会社員時代はどんなに頑張っても月収30万円程度だったという。

ゴマすりは嫌だ

大塚は中学時代にコミックマーケットで同人誌を売り、金を稼ぐことを覚えた。上司にゴマをすったり、後輩の世話をしたりするのはどうも性に合わない。17年に5万円のノートパソコンひとつで独立した。

「自分で仕事を決められて、収入の上限がない」。大塚の考えるフリーランスの魅力はいたってシンプルだ。

あくせく働いているわけではない。正午ごろに起きて、4時間働くとごろりと横になり昼寝をする。夜になってメールに返事をするのが、典型的な一日の過ごし方だ。空いた時間はネットフリックスでコメディー映画などを見る。夜には近くの大型スーパーに割引シールのついた掘り出し物の総菜を探しに行く。

仕事の結果しか興味ない

派手にお金を使うことに興味があるわけではない。余ったお金があると、あしなが育英会に寄付している。「自分の仕事の結果にしか興味がない」。職人肌の大塚には、フリーランスの働き方が合っている。

年商を自ら公開するのは「フリーランスという存在を意識してもらうには、具体的な数字が必要」という信念があるからだ。自分以外にも会社勤めよりフリーランスの方が能力を発揮できる人がたくさんいるはず、と思っている。

「第4の波」

働く企業と直接の雇用契約を結ぶのとは違う働き方が出てきたのは1980年代のことだ。人材派遣のサービスが広がり始めた。85年には労働者派遣法が成立し、専門的な知識や技術を必要とする業務を担う派遣労働者の法的な位置づけが明確になった。リクルートグループのアルバイト情報誌「フロム・エー」で「フリーター」という言葉が生まれ、一橋大学教授の神林龍は「これが働き方が変わる第1波だった」と話す。

90年代以降は経済成長の鈍化などを背景に非正規雇用が広がる。フリーランサーという言葉が使われるようになったのが第2波だ。

2000年代には社員ではなく個人事業主として契約し、企業で働くインディペンデント・コントラクターという働き方が日本でも注目された。これが第3波。神林は台頭するギグエコノミーを「第4の波が来ている」と見る。

法整備に不安も

労働行政を担う厚生労働省はフリーランスの働き方を「雇用類似」と表現し、法規制が必要か検討を重ねている。立場が不安定で低賃金に悩む人もいるためだ。一般の労働者に最低賃金があるように、最低限の報酬額を設定すべきだとの意見もある。

だが「報酬の相場が最低ラインで形成されれば、収入が減りかねない」(システムエンジニア)という声や「経験を積むために安くても引き受けていた仕事ができなくなる」といった懸念がフリーランス側にある。

目指していることは

インターネットが生んだギグエコノミーの担い手たち。埋もれていた才能が発掘されれば、経済の活力につながるだろう。だが、時代の境目には仕事を奪われ、ひどい待遇にさいなまれる人もいる。

でも、誰もがあこがれていることではないだろうか。

好きな場所で、好きな仕事を、自分のためにするということは。

=敬称略、つづく

(奥田宏二、平野麻理子、石橋茉莉)

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ギグエコノミーの担い手たち

インターネットを通じて単発の仕事を請け負う働き方が日本でも広がっている。場所や時間を選ばない働き方は、埋もれた時間や能力に価値をもたらす。一方、弱い立場で低賃金に悩み、待遇の悪化に苦しむ人もいる。新しい働き方がもたらす経済は「ギグエコノミー」と呼ばれる。担い手たちは、何を感じているのか。

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