会社じゃなくネットで働く 仕掛け人たちの転機
ギグエコノミーの担い手たち(2)
だれもが忘れられない日が、始まりの日になった。
2011年3月11日。東日本大震災が起きたこの日、ランサーズ(東京・渋谷)社長の秋好陽介(38)は神奈川県鎌倉市にオフィスを構えていた。
「個人と企業をネットでつなぐ懸け橋になろう」。弟と2人で起業していたが、正直なところ、うまくいっていなかった。企業がネットを通じて個人に仕事を発注するサービスを始めたものの、企業は顔も見たこともない人に仕事を頼まない。そんなビジネスに個人もなじめない。依頼は1日に1~2件ほど。売上高は月に10万円ほどしかない。
広がった「在宅勤務」
そんな秋好をとりまく雰囲気が震災でかわる。働く場所が被災し、しばらくは家族と離れられないと感じた人たちが、自宅で働くすべを探すようになったのだ。このころから、秋好のサービスへの問い合わせが増え始める。秋好もサービスを改善し、「クラウドソーシング」というキーワードを広げる努力をした。だが、依頼が月1000件に急増したきっかけは、社会が変わり始めたことだった。
会社ではなく、インターネットが働く人たちのインフラになる。くしくも震災をきっかけに事業が伸び始めたランサーズの秋好はほどなく、それを改めて意識させられることになる。
これで生活している
事業が軌道に乗り始めた12年。宮崎県に住む50代の男性から、1通のメールが秋好に送られてきた。...
インターネットを通じて単発の仕事を請け負う働き方が日本でも広がっている。場所や時間を選ばない働き方は、埋もれた時間や能力に価値をもたらす。一方、弱い立場で低賃金に悩み、待遇の悪化に苦しむ人もいる。新しい働き方がもたらす経済は「ギグエコノミー」と呼ばれる。担い手たちは、何を感じているのか。