期限ありきの2段階実施 議論置き去り、悪循環生む
混迷・入試改革(4)
「2020年度の対応がなければ、腰を据えて24年度の議論ができたのに……」。来年度に迫った初の大学入学共通テストの準備に追われる大学入試センターの関係者がぼやく。
24年度は新学習指導要領で学んだ高校生が大学入試を受ける最初の年だ。文部科学省は本格的な入試改革の年になると位置付けるが、具体的な中身の議論はあまり進んでいない。英語民間試験などへの対応にてんてこ舞いだからだ。
改革を2段階に分けたのはなぜか。工程表をまとめた当時の文科相、下村博文衆院議員は「(入試改革は)いつも『総論賛成・各論反対』で進んでこなかった。だから進められるものから進めようと考えた」と話す。
しかし、複数の同省関係者は別の見方をする。「東京五輪がある20年をターゲットイヤーに、という雰囲気の中で決まった」。根拠が不明確なまま期限ありきで進んだ議論は実施を目前にした段階で混乱を生み、より大事な問題への対処が遅れる悪循環を招いている。
「共通テストの英語をやめて民間試験だけにしてもいいのか」。7月初旬、全国の高校校長が集まった会合で、危惧する声が相次いだ。文科省は23年度まではセンターがつくるマークシート式試験と民間試験を併存させるが、その後は未確定。民間試験に一本化された場合の高校教育への影響を不安視する声は強い。
民間試験の活用に慎重な大学も20年度は成績を合否判定に使わないなどの"裏技"でしのぐが、共通テストの英語が廃止されたときにどうするかまで深く考えているようには見えない。
国語と数学に加え、地理歴史や理科への拡大が検討される記述式問題の課題も重い。センターなどは20年度改革で採点の公平性をどう確保するかに忙殺され、「物事の本質を見通す力の素地をみるにはどんな問題を出すべきか」という議論は深まっていない。
人工知能(AI)社会への対応も急ぐ必要がある。24年度の共通テストではプログラミングを含む知識を問う「情報1」を新設する案があり、センターはコンピューターで解答するCBT方式が可能か一部の高校で実証実験を始めている。ただ、同方式を導入する場合は、端末や試験会場をどう確保するかなど、検討が必要な項目が多い。
混迷する改革に苦悩しつつ、高校や大学は独自の道を模索している。
プログラミング教育に力を入れる神奈川県立住吉高校(川崎市)。1年から必修で基礎を学び、3年では機械を動かすプログラムまでつくれる体制にした。「入試でどこまで必要になるかは分からないが、生徒の将来につながると信じて取り組んでいく」(同校)
静岡大工学部は19年度の個別試験で15年ぶりに英語を課すことを決めた。受験生を増やすためにやめていたが、人材を主に送り出す先となる製造業が国際展開を強化し、学生の英語力の不足に目をつぶっていられなくなった。「英語が重要とのメッセージを自ら出すことが大事」と川田善正学部長。高校や大学の自主性も問われている。