「お辞儀スイング」で苦手バンカー克服(下)
久富 では「イヤイヤ打法」と「五角形打法」を取り入れて、「ポトンショット」を練習しましょう。まずは素振りを行って、それからティーアップしたボールを打ってみましょう。この「ポトンショット」ができないと、バンカーから一発で出せるようにはなりませんから。
まず「イヤイヤ」をしてから「五角形」の構えを作り、アドレスに入る。上半身の力を抜いて素振りをしてみるが、最初はなかなかうまくいかない。「デッドハンド」を意識して体の回転でスイングしようとすると、手が上がっていかずトップが浅くなる。「五角形打法を忘れて、脇が閉まってますよ」と声がかかる。ハッとして「五角形打法」を意識しながら素振りをすると手が上まで上がり、大きなスイングが徐々にできるようになってきた。ヘッドスピードも前と比べると速くなっているのが実感できる。
久富 いいでしょう。かなり、腕の力が抜けてきました。五角形打法で肩の回りも良くなっています。それではティーにボールを乗せて「ポトンショット」をやってみましょう。
ティーに乗ったボールを見ながらアドレスに入るが、素振りとは違い、またホームランするのではないかと恐怖心が襲ってくる。一旦、アドレスをほどき、「イヤよ、イヤイヤ」をしてから「五角形打法」を意識しつつ再度アドレスに入る。「デッドハンド」と唱えながらスイングするとサンドウエッジ(SW)のリーディングエッジがティーを打ち抜き、ちょっと大きめだったが見事に「ポトンショット」を行うことができた。1打目が前方15ヤード、2打目は前方10ヤード、3打目は前方7ヤードと短くなっていき、それにつれてホームランするのではないかという恐怖心も薄らいでいった。
久富 いいですね。大分、「イヤイヤ打法」と「五角形打法」が身に付いてきました。今日は時間がないので次に進みますが、この「ポトンショット」を練習場で何回も行ってください。「ポトンショット」の目的をもう一度復習しましょう。バンカーショットを打つときにヘッドスピードが不足しないようにすること、そのために「大きなスイングをしてもボールが飛ばない」ということを脳に刷り込むためでした。この大きなスイングができるようになるとガードバンカーから一発でグリーンに乗せることができるようになりますよ。
──今までバンカーショットはクラブを短く持って砂の抵抗に負けないように脇をしっかり閉めて、オープンスタンス、オープンフェースで行っていました。それがすべて裏目に出ていたということですね。
久富 何回も言いますが、上級者やバンカーが得意な人はそれが正解なんです。でも、バンカーが苦手で一発でグリーンに乗せることが第一目標の人なら、まず大きなスイングで、スクエアスタンス、スクエアフェースでバンカーショットができるようになるのが最優先となります。では、最後に「すくい打ち防止策」を練習してレッスン会を終了しましょう。
久富 バンカーショットで一番やってはいけないミスはトップです。説明はいりませんよね。ガードバンカーでトップすると大たたきにつながるからです。グリーン手前のバンカーでトップするとグリーン奥のOBゾーンまで飛んでいったり、厳しいライからのアプローチが残ったりして、あっという間にトリプルボギーやダブルパーをたたいて一気に沈んでしまいます。
──わかり過ぎるくらいわかります。そもそもバンカーショットが苦手になったのも大たたきが原因でした。それも普段のアイアンショットではダフりのミスが多くてめったにトップすることはないのですが、バンカーショットに限りトップが出てしまいます。
久富 それは「すくい打ち」を無意識に行ってしまうからです。特にバンカーのあごが高い場合は要注意です。先ほど行った「ポトンショット」でわかったように、SWならばフェースを開かなくても大きなスイングを行えばボールは上がるものです。ところが目から入ってくる「あごが高いぞ!」という情報から、本能的に体が反応してついボールを上げようとする「すくい打ち」をしてしまう。それでどんなことが起きるかというと、上体の起き上がりが早くなりトップしてしまうというわけです。
──自分の意思に関係なく「すくい打ち」をしてしまうのですね。
久富 そうなんです。無意識というところがやっかいです。これを防止するには「あごの高いバンカーでも、普通に打てばボールは高く上がってあごを越える」ということを脳に刷り込む必要があります。ところがあごの高いバンカーを練習できるところなんてめったにありません。ここ、赤羽ゴルフ倶楽部の練習バンカーは結構あごが高いので練習には最適ですが、脳に刷り込ませるくらいバンカー練習を行うほど通い詰めることはできないでしょう。
──それではどうすればよいのでしょうか?
久富 そこで考えたのが「お辞儀スイング」です。ボールを打つ瞬間に「ごめんなさい」と上体を折り曲げるのです。これを意識的に行えば、例え起き上がりたくても起き上がることができません。
──本当にそんなことができるのでしょうか?
久富 それができてしまうから不思議です。実際に体験してみるのが一番だと思いますので、早速バンカー内でボールを打ってみましょう。
生徒さんが順番にバンカーに入り練習を開始した。ここの練習バンカーは小さいので1人ずつ順番でしか練習ができないが、あごが高くバンカー練習としては申し分ない。さすが久富さんのお弟子さんだけあって皆さん一発で高いあごをクリアしていく。そして最後に順番が回ってきた。
バンカーに入る前に今日習ったことを復唱する。
(1)スクエアに構えてフェースもスクエア(2)「ポトンショット」で覚えた大きなスイングでボールの下のティーを刈るように打ち抜く(3)「イヤイヤ打法」で覚えた腕の脱力(デッドハンド)(4)「五角形打法」で覚えた脇を閉めずにトップの手の位置を高く上げる(5)「お辞儀スイング」ですくい打ちを封じる。
少し盛りだくさんで整理がまだできないので、スクエアに構えて「大きなスイング」と「お辞儀スイング」だけに意識を集中させ、バンカーショットを行った。そうしたらなんとボールはフワッと上がり、高いあごを越えて10ヤードくらい先に落ちた。2打目も同様に高いアゴを越えていく。「ポトンショット」の練習が功を奏している感じだ。
「お辞儀スイング」はぶっつけ本番なので、大きくダフるのではないかと少し不安もあったが、そんなこともなくちょうどよい砂の取り方だった。ということは無意識のうちに「すくい打ち」を防ぎ、体の起き上がりもなかったに違いないということだ。
久富 説明だけを聞いて、練習も順番待ちであまりできなかったのに大変上手にバンカーショットを打てました。とてもバンカーが苦手な人には見えません。
──ありがとうございます。何しろ今まで行っていたバンカーショットと正反対のスイングをしているように思うのですが、自分でもびっくりするくらいうまくいきました。
久富 プロにとっては最適なことでもアマチュアにとってはそうではないということがたくさんあるわけです。ですからいろいろな発想をして実験をする、結果がダメなら次のことにチャレンジする、これが楽しいのです。さあ、そろそろスタート時間ですね。1組から3組まで6ホールずつ一緒に回りますので、そのときにレッスンの続きを行いましょう。
全員 よろしくお願いします。
ラウンド中のバンカーショットをリポートしようと思ったが、この日に限って1度もバンカーに入らなかった。練習場のバンカーで良い感触をつかめたので実際のラウンドでも試したかったのに残念。代わりに1週間後に別のコンペに参加したときのバンカーショットについてご報告したい。
この日のラウンドはガードバンカーに3回入れて3回とも一発で出すことができた。そのうち2回はグリーンに乗り、1回は大きくダフって出すだけだったが、それでも今までなら出すこともできないあごの高いバンカーだった。このときは大きなスイングを心掛けヘッドスピードを上げたから出すことができたのだ。
また、「お辞儀スイング」のおかげでトップは一度もなかった。最近のラウンドのなかでは上々のバンカーショットで久富レッスンが早くも効果を発揮したと思う。もっと練習を積んで「ポトンショット」や「お辞儀スイング」を「脳に刷り込む」ことができれば、もうバンカーショットの苦手意識は消えるのではないかと考えている。
(文:並木繁、撮影協力:赤羽ゴルフ倶楽部)