「お辞儀スイング」で苦手バンカー克服(中)
久富 それともう一つ、スクエアに構えたときのロフトの問題ですが、実は普通のあごの高さならサンドウエッジ(SW)のフェースを開かなくても十分ボールは出るのです。だからSWのロフト角は56度でも58度でも構いません。ですがプロのようにロブショットを打ちたい、バンカーショットでもスピンをかけたいと思うのであれば、ゴルフバッグにロフト角60度のSWを1本追加することをお勧めします。
──ロフト角60度ですか。
久富 そうです。今、メーカーではウエッジのロフトの種類を6種類から7種類用意しています。だから、いろいろな選択肢があるのです。例えば、52度、56度、60度と3本のウエッジを4度刻みでセットしてもいいですし、60度はロブ専用にして52度、58度、60度の3本を入れてもよいと思います。60度なら特別な打ち方をしなくてもスクエアに構えてロブショットが打てます。バンカーからも高く上げてグリーンに止まるボールも打てます。練習すればキュキュと止まるボールも夢ではありません。
──しかし、60度のウエッジは難しそうです。
久富 もちろん、ロフトが寝てくると難しくなりますが、フェースを開いて打つより何倍もやさしい。何回も言いますが、ゴルフはこうでなければならない、ということはないのです。固定観念にとらわれずにいろいろ試してほしい。特にウエッジはバリエーションがあるし、組み合わせの選択肢もあるので研究のしがいがあります。こうやって考えているだけでもわくわくしてくるでしょう。
久富 ではみなさん集まったようなので、アプローチ練習場でレッスン会を始めましょう。
久富さんを先頭に集まった9人がアプローチ練習場まで移動する。赤羽ゴルフ倶楽部は河川敷コースでドライビングレンジはコースに隣接する戸田橋ゴルフ練習場を利用するのだが、アプローチ練習場はスタートホール脇にあり立派な練習バンカーもある。
久富 それではみなさん、バンカーでの練習に入る前に私が名付けた「ポトンショット」から練習してみましょう。まず、Mサイズのティーを1本用意します。なければLサイズでも構いません。地面にティーを刺してボールと地面の間隔が1センチくらいになるように調整してください。そしてボールを置いて、SWでボールと地面の間のティーをフルショットで打ち抜きます。スタンスはスクエアにし、フェースもスクエアにします。体重は左足寄りでなるべく大きなスイングを心掛けます。では私がやってみますので、見ていてください。
そう言って、久富さんが36.5インチのSWを使い、フルショットでティーを打ち抜く。そうするとボールはだるま落としのように前方5メートルの位置に「ポトン」と落ちた。2打、3打と打つが同じところに「ポトン」と落ちる。
久富 さあ、やってみましょうか。この「ポトンショット」ドリルの目的は大きなスイングをしてもボールが飛ばない、ということを脳に刷り込むことです。先ほども言いましたように、バンカーの苦手な人は恐怖心から大きなスイングができず、ヘッドスピードが足りていないことが多いのです。
生徒さんが順番に「ポトンショット」を行う。前から習っているのか、皆さん上手に「ポトンショット」を行っている。とても簡単そうに見える。続いて私の順番になり同じようにティーにボールを乗せ、SWを手に持ってアドレスに入る。ところが構えてみるとボールが飛んで行ってしまうイメージが湧いてきて、なかなか大きなスイングをする勇気が出ない。「体が固まっていますよ」と久富さんから声がかかる。
久富 体がガチガチですね。もっとリラックスして。手と手首をもっと柔らかく。そうですね、「ポトンショット」の前に「イヤイヤ打法」を習得しましょうか。
──「イヤイヤ打法」?
久富 ちょっと例えが昭和っぽいですが、女性が肩を揺すってイヤイヤするときのしぐさに似ているので私はそう呼んでいます。よく「でんでん太鼓」に例える方もいます。手の力を抜いて肩の回転だけでスイングするイメージです。
一旦クラブを置いて、スタンス幅に足を広げ、正面を向いて肩を回す。今どきの女性はイヤイヤなどしないだろうから「でんでん太鼓」のイメージで行う。そうすると肩につられて腕も回り、右手が左脇腹に、左手が右脇腹に当たる。そして「でんでん太鼓」のイメージが残っているうちにクラブを持ち、アドレスして「ポトンショット」を行った。結果はポトンどころかクリーンヒットしてしまい、ボールは50ヤード先のやぶの中に吸い込まれていった。他の生徒さんはみんなうまくできているのになぜだかできない。落ち込んでいるとまたまた久富さんから声がかかる。
久富 惜しかったですね。「イヤイヤ」まではよかったのですが、アドレスに入ったらまた手がガチガチになっていました。おそらくバンカーショットだけでなく通常のドライバーショットやアイアンショットのときも腕がガチガチになっている可能性が高いですね。コースでもショットが当たらなくなってきたら、打順を待つ間に「イヤイヤ打法」を行ってみてください。
──確かに調子の悪いときなど、同伴者から「力が入り過ぎだよ」と指摘されたことが何度かあります。
久富 やはりそうでしたか。「イヤイヤ打法」をコースでやると、腕の緊張だけでなくて気持ちの緊張も解けます。もっとも声に出すなら周りに聞こえないようにしないといけませんが。
──ははは。確かに。「でんでん太鼓」だと真面目過ぎて面白みに欠けますね。「イヤイヤ打法」のほうが緊張が解けそうです。
久富 ゴルフは楽しくプレーするのも大事なことです。またまた話がそれましたので、もとの「ポトンショット」に話を戻しましょう。先ほどの「ポトンショット」を見ていてもう一つ改善したいことがあります。それは両脇が閉まって腕が上がっていかないところです。腕が上がっていないのに大きなスイングをしようとする葛藤から上体が起き上がってしまうのです。これを直すには「五角形打法」が最適です。
──「ポトンショット」、「イヤイヤ打法」に続き「五角形打法」ですか。
久富 そうです。「五角形打法」とは両脇を閉じずに両脇に少しゆとりを持たせ、腕も肘を少し曲げて構えます。パターを打つときに、腕の形が正面から見ると五角形になっているのと同じです。そしてそのままバックスイングします。そうすると楽にグリップが高い位置まで上がります。そのままダウンスイングして、フォローでも脇を閉めずに肘を抜くようにします。
──今まで脇が開かないように注意をしていました。そのほうがスイングがまとまるように思えたからですし、正直、脇が開いたスイングはかっこ悪いような気がします。
久富 脇を閉めるのはもちろん間違いではありません。しかし、それは腕に無駄な力が入らず、体でスイングができる上級者のスイングです。まずは「デッドハンド」、腕が仕事をせずに体で打てるようになるのが先です。それと、既成観念にとらわれて、これは良くてあれはダメと思うのはやめにしましょう。ゴルフは自由なんです。そして一番かっこ悪いのはプロのまねをしてちっとも上達しない人だと私は思います。
──そうでした。ついつい久富ゴルフの神髄を忘れていました。
(次回は9月16日に掲載予定。文:並木繁、撮影協力:赤羽ゴルフ倶楽部)